森保監督は北川に何を求めていたのか?  GS突破も、勝因は「2つの判定」

宇都宮徹壱

2試合目にしてグループステージ突破を決めるも……

原口がPKを冷静に決め、日本が待望の先制点を奪う 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 危うく「罰せられたゲーム」になるところだったが、その後も日本は相手陣内を攻め続ける。前半24分には南野と堂安が連続シュートを放つも、立て続けにブロックされる。直後の26分、南野がシュートを放ち、アルルシェイディがはじき返したボールに原口が反応する。しかし飛び出した瞬間、相手DFに倒されてホイッスル。主審は迷うことなく、ペナルティースポットを指した。PKの判定である。

 このチャンスに、倒された原口自身がきっちり決めて、日本は28分に待望の先制点を挙げた。とはいえリプレイ映像を見る限り、判定は実に微妙なものであった。アフメド・アルマハイジリのタックルは、それほど悪質なものとは思えず、しかもペナルティーエリアの外で原口が倒れたようにも見える。逆に45分、サラー・アルヤハヤエイのシュートが、ボックス内にいた長友の左腕に当たる。しかし、こちらはノーファウルの判定だった。

 結局、前半は日本の1点リード。かなり判定に救われた部分もあったが、それでも1点は1点である。ただし前半だけで5回のチャンスがありながら、得点がPKによる1点というのは(いくらGKアルルシェイディが当たっていたとはいえ)、いささか気になるところ。もうひとつ気になったのが、トップ下の南野が4本ものシュートを放っているのに対し、ワントップの北川はほとんどチャンスに絡めていないことだ。確かに北川が相手DFを引きつけて、南野がフリーの状態になっていた場面もあった。しかし北川がボールを欲しがっている様子も見られ、単にスペースを作る動きが求められているようにも思えない。

 果たして森保監督は、北川に何を求めていたのであろうか? 結局、よく分からないうちに後半11分、北川は武藤との交代でベンチに下がる。しかし武藤が入ってからの日本は、攻撃が活性化するどころか、むしろ前半と比べてチャンスが作れなくなってしまった。対するオマーンも、急所を突くようなカウンターが鳴りを潜め、全体にまったりとした空気に包まれる。終了間際、堂安に代わって出場した伊東純也が、自らドリブルで持ち込んでシュートを放った以外、特に見せ場もないまま試合終了。1−0で勝利した日本が、2試合目にしてグループステージ突破を決めた。

オマーン戦での試行錯誤を、次の試合に生かしてほしい

北川のワントップ起用にはどんな意図があったのだろうか 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 試合後の監督会見。最初に姿を現したオマーンのファーベーク監督は、問題のPKについては「アンラッキーな瞬間だった」としながらも、判定に対して必要以上にクレームをつけることはなかった。その上で「この試合で学んだことを生かして、次のトルクメニスタン戦でわれわれの意地を見せたい」と語っている。20時キックオフの裏の試合は、ウズベキスタンが4−0でトルクメニスタンに勝利。これで日本は得失点差で2位に後退し、オマーンは3位に浮上した。いまだ勝ち点のないオマーンだが、得失点差は−2。トルクメニスタンとの第3戦に大勝すれば、3位でのグループ突破も十分にあり得るだろう。

 続いて登場した森保監督には、オマーンの記者から2つの興味深い質問があった。すなわち「今日のレフェリングについてどう思うか」、そして「後半の日本は1−0でよいという判断だったのか」。前者については「レフェリーのジャッジが全てかなと思っています」と予想通りの答えだったが、後者については少し心外そうな様子で「相手を無失点に抑えながら追加点を奪いに行こうとしていました」とコメントしている。オマーンの側からすると、後半に日本の攻撃が停滞したのは意図的なもののように感じていたようだ。これには森保監督も、内心忸怩(じくじ)たるものを感じていたことだろう。

 実はこれと関連して、私は森保監督にぜひとも質問したいことがあった。それは「ワントップの北川に何を求めていたのか?」である。大迫の代役として起用された北川だが、本来は清水エスパルスにおけるドウグラスのような相棒がいてこそ、その能力が発揮されるタイプ。北川の特長を生かすのであれば、前線をツートップにすべきであったと思う。それでもあえてワントップにしたのなら、その理由が知りたかった(さすがに大迫と同じ役割を求めていたとは考えにくいが)。ところがいくら挙手しても、プレスオフィサーの女性から指名されることなく、謎を残したまま会見は終了となった。

 ミックスゾーンを取材した同業者によると、北川はこんなコメントを残していたらしい。いわく「自分や(南野)拓実くんは裏でもらうのが得意なので、(味方がボールを)奪った時に早く(裏を)見ることができればと言うのは、チーム全体で話していました。2人が被ってしまうところはありましたけど、ボールが来れば有利になるので、そこはやり続けることが大事かなと思います」。指揮官からどんな指示があったかは不明だが、チームの中で自分がどう貢献すべきか試行錯誤をしていた様子がうかがえる。いずれにせよ、この勝利で日本は、少なくともあと2試合は戦えることとなった。北川にはオマーン戦での蹉跌(さてつ)を乗り越えて、次のチャンスでぜひ結果を残してほしいところだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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