知られざる富山とバスケの関係 リーグ編 富山でビッグゲームが続く理由

大島和人

Bリーグの葦原一正事務局長に、オールスターゲーム富山開催の意図を聞いた 【大島和人】

 1月19日、Bリーグオールスターゲーム2019が富山市総合体育館で行われる。スポーツナビではこのビッグイベントを前に、あまり知られていないがなかなか興味深い富山のバスケ事情について5回の連載を行う。第1回は「夢の祭典」を支える関係者に、開催の意義や経緯など、裏方から見るオールスターを語ってもらった。

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総合演出は加藤ミリヤが手掛ける

 Bリーグは昨年、熊本でオールスターの地方開催にチャレンジした。3度目となる今回は、会場の立候補制度を取り入れた初のオールスターだ。

 当日は試合前からスキルズチャレンジ、ダンクコンテスト、3ポイントコンテストとアトラクションが続き、19時10分からゲームが行われる。総合演出を担当する加藤ミリヤさんは、事前の打ち合わせから本格的に関わっているとのこと。会場には加藤さん、SWAY、SPYAIRの3アーティストが登場し、音楽的にもかなり「ガチ」なイベントが用意されている。

 東京・品川では試合に並行して次世代型ライブビューイング「B.LIVE」も予定されている。8Kスクリーンを用い、音響も含めて限りなく現実を再現した環境の中で、盛り上がりを共有できるイベントだ。

 B.LIVEは将来に向けたノウハウを獲得する場でもある。Bリーグの葦原一正事務総長はこう説明する。

「将来的にはチームがアウェー遠征のときに、ホームアリーナで(ライブ観戦が)できるようにしたい。同じエリアで一緒に応援をしたい、同じ趣味趣向の人と一緒に時間を過ごしたい思いが日本の人は強いはずです」

パートナー企業による“権利活用の場”にも

 またオールスターのようなビッグゲームは、メディアにバスケットボールを取り上げてもらうチャンスだ。オールスターに先立つ昨年11月30日と12月3日、富山では日本代表のワールドカップ(W杯)アジア地区2次予選が開催された。それが決まった直後に行った「認知度調査」で、地元クラブの富山グラウジーズは約15%にまで上昇したという。代表やBリーグがマスメディアに露出すれば、クラブの後押しにもなる。

 メディアへの露出に加えて、地域創生への貢献も重要な狙いだ。「B.LEAGUE Hope」の仕組みを通したチャリティーへの参加も、昨年に引き続いて行われる。

 一方でバスケットボールは連係が重要になるチームスポーツ。お祭り感のある内容を好まず、オールスターを不要と考えるファンもいる。そもそもBリーグのオールスターは経費が高く、単体で「たくさん稼げる」イベントではない。例えば選手年金の原資確保を大きな目的としているプロ野球(NPB)のオールスターゲームとは性格が違う。サッカーのJリーグは1993年からオールスター戦を行っていたが、2007年をもって廃止した。

 しかしBリーグのオールスターには、かなり深く・広い開催理由がある。葦原はこのイベントの持つ露出拡大に並ぶ大きな価値の一つを、「スポンサーアクティベーションの場」と説明する。少し耳慣れない単語だが、Bリーグのパートナー企業による“権利活用の場”という意味だ。

 彼はこう述べる。

「VIPの方が一堂に会する社交の場でもあります。BtoB(対企業)の観点から大きなイベントです。レギュラーシーズンだと、どの試合で何をやるか難しい。でもオールスターはスーパースターが来て分かりやすい」

 会場内には飲食と談笑の場となるラウンジも用意される。NBAやサッカーのビッグクラブなら普段から当たり前の光景で、サッカーやラグビーの日本代表戦でも行われる“おもてなし”だ。言うまでもなくスポンサー企業、パートナー企業はBリーグを支える極めて大きな存在。彼らに喜んでもらう、バスケを実際に見てもらうことは支援を維持拡大してもらうために重要なアクションだ。

クラブと自治体の「協働」の場にも

当時富山の社長だった黒田氏が中心となってオールスター招致を行った 【(C)B.LEAGUE】

 19年のオールスター開催地として立候補したのは富山と大阪だった。ちょうど1年前にプレゼンテーションと投票が行われている。富山側からは富山グラウジーズの黒田祐社長(当時)が中心となって招致を行い、当日のプレゼンテーションも行った。

 葦原は「自治体にどれだけ協力していただけるか」も、かなり大きな選定ポイントだったと振り返る。富山市は提案の段階から協力的で、開催決定後も路面電車のラッピングや市内の掲出物など、Bリーグ側は特別な配慮を得ている。

 彼は開催地の選考、自治体との協働について「未来につながる布石」の意味合いも口にしていた。

「行政との距離が縮まり、特別な権益を使わせていただくことはかなり大事だと思っている。それによってクラブが行政の方とやりやすくなる。オールスターというコンテンツを使って新しい前例を作ることが重要だと思っている」

 もちろん誰かが一方的に損をするは成り立たない。オールスターやBリーグの各クラブが地域を潤す、その価値を上げるものでなければ、行政の支援を得る資格も生まれない。しかしBリーグの価値が上がれば、自治体はオールスターを呼ぶために「競争」を始めるだろう。そういったサイクルを促進することも、このイベントの狙いだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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