知られざる富山とバスケの関係 リーグ編 富山でビッグゲームが続く理由

大島和人

当初は想定外だった富山での代表戦

富山ではW杯アジア2次予選の2試合が行われたが、当初は想定外だった 【写真:バスケットボールキング/山口剛生】

 オールスターの富山開催は1年前から予定されていた。一方で11月、12月、1月と富山でビッグゲームが続くスケジュールは想定外だった。

 B.MARKETINGのスタッフで、代表戦の運営にも関わっていた五月女淳はこう説明する。

「日本代表は4連敗で年度が明けて、(18年の)4月を迎えていました。FIBA(国際バスケットボール連盟)からはウィンドウ5は2試合ともホームと言われていたものの、開催できる場所が決まっていなかった。明確な日付や対戦相手も確定していなかった。2020年問題(※東京五輪に向けて施設の改装・休業が相次いでいる)と呼ばれるものがあって、首都圏の大きな体育館はすべて埋まっている状態でした」

 B1規格の規模を持つアリーナは、日本全国を探しても限られる。「電話だけ」も含めれば、JBA(日本バスケットボール協会)のスタッフは数十カ所の施設にコンタクトを取ったという。最終的にはクラブや県協会の協力もあり、富山市総合体育館での開催が決まった。

 しかし五月女はその苦労を、けがの功名として生かそうとしている。

「11月と12月に代表戦があり、さらに1月にオールスターとなると、ムーブメントが創りやすいんじゃないかなと思います」

 五月女は開催地・富山の魅力をこう述べる。

「歩いて5分ですから、新幹線の駅(富山駅)からこれだけ近いアリーナは珍しい。東京から2時間半程度で行けるアリーナで、これだけの規模というのも貴重です。全国各地からいらっしゃると思うので、地方開催だけどかなり見に来やすいオールスターになる」

 昨年のオールスターは熊本県外からの来場者が53.7%を占め、関東からの来場者は21.5%に達した。

 観戦者が全国から富山に乗り込んで、すぐ帰るようでは地域創生にも結び付かない。今回は地元テレビ局・北日本放送が取りまとめた施設、飲食店、土産店などが参加したスタンプラリーが行われる。Bリーグ側と地元がタイアップして「オールスター観戦に合わせて富山観光を楽しむ」仕掛けを用意した。

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未来につながるさまざまな布石

日本代表の運営にも関わっていた五月女も、代表戦とオールスターの連戦の意義を感じている 【大島和人】

 ただし、一般販売は6分間で完売したプラチナチケットを「どう売るか」は悩みどころだった。葦原はこう説明する。

「地元の人にたくさん来てほしいし、県外の方から来てもらって地域にお金を落とすことも地域創生の一つ。そのバランスは悩みどころです」

 県外からの来場者を存分に呼べて、その上で県内の観戦希望者にチケットが行き渡る――。そのような理想を実現できるアリーナはなかなかないし、仮にあっても空いていないという現実が今の日本にはある。

 だからこそメディアを通した展開が重要になる。19日のオールスターはNHK BS-1、テレビ東京(関東ローカル)、バスケットLIVEなど計8チャンネルでの放送が予定されている。前日18日(金)の19時からは富山テレビで、Bリーグオールスター特番も放送される予定だ。

 五月女はこう述べる。

「実際に会場で試合を見る方は限られてしまうので、できるだけ多くのチャンネル、ツールを通して見ていただくのが一番いい。あとBリーグのブランド、世界観を伝えるためには幅広いチャンネルに出ていく狙いもあります」

 オールスターはアリーナにいれば素直に楽しめるイベントだ。一方で夢の舞台の「裏側」には複合的な仕組みがあり、この競技の未来につながるさまざまな布石も打たれている。

 葦原はオールスターの意味をこう説明する。

「我々はバスケ全体の認知度、ブランドを上げていきたい。スポンサー様にもメリットがある。クラブは行政との関係をさらに深められる。行政も地方創生で、他県からインバウンドがいっぱい来て、お金を落としてもらえる。四者で成り立っているスキームだと思っています」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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