菊池雄星、MLBへの夢を実現させた9年間
身近で取材を続けたライターからのエール

取材を通して分かったその人柄

もともとメジャー志向が強かった菊池雄星。西武での飛躍を経て、いよいよ夢の舞台へ挑む
もともとメジャー志向が強かった菊池雄星。西武での飛躍を経て、いよいよ夢の舞台へ挑む【写真は共同】

 この冬にシアトル・マリナーズへの移籍を決めた菊池雄星に対し、埼玉西武に在籍した9年間、良くも悪くも答えにくい質問をかなりしてきた自覚がある。取材者の立場からすると、そうしたやりとりを通じ、菊池の怪物たる所以(ゆえん)、プロでの成長要因、知力、そして人柄がよく伝わってきた。


「金の卵」が孵化(ふか)したプロ入り4年目の2013年のオールスター前、『Web Sportiva』のインタビュー中のある質問は、とりわけ答えにくいものだったはずだ。


 12年末、関西国際空港で花巻東高の後輩・大谷翔平(エンゼルス)と間違われたという話を菊池はトークショーで自ら語った。普通の感覚なら腹立たしいと思うが、そんなことはどうでもいいと感じたから、自ら話したのだろうか?


「結果を出せる自信もあったし……」


 少し語気を強めてそう言った菊池は、一瞬の間を置いて続けた。


「結局、来年(14年)も松井裕樹君(桐光学園高→東北楽天)がプロに入ってきますよね? 来年には大谷と投げ合いをしたいと思いますし、素直に楽しめると思います。でも、今年は『先輩・後輩対決』とか言われちゃうので、いまはやりたくないです(笑)」


 プロ野球には毎年、「怪物」「天才」「●●二世」と言われる選手が入ってくる。だが、多くの者が怪物にも天才にも●●二世にもなれない。プロ野球はそれほどハードルの高い世界だ。

自らを「怪物」に育て上げたハングリー精神

 ではなぜ、菊池は日本球界最高左腕と評価され、マリナーズが最低で4年総額5600万ドル(約61億円)、最大で7年総額1億900万ドル(約118億円)という値をつけるほど価値の高い選手になれたのか。


 その礎としては、プロ2年目から教わっているというメンタルトレーナーの山家正尚氏が教えることの本質を、4年目くらいからわかってきたことがかなり大きいという。菊池の胸に特に響いたのは、以下の言葉だ。


「メンタルとは、目標を達成しようとかそういうことではなくて、自分を知ることだと思うんだよね。目標を立てて頑張るぞ、ではなくて、自分の弱さ、汚さもひっくるめて、わかることが大事だよ」


 菊池は自分自身を知り、自分が成長するための道を探した。向上心を持ち、中長期的計画を立て、正しいであろう方法で努力を続ける。そして日々、成長や夢に向かってハングリー(貪欲)さを増幅させる。筆者は本稿執筆の前日、ボクシングの井上尚弥をインタビューする機会に恵まれたが、「怪物」を形作る要素には多くの共通点があると感じた。


 菊池が先輩投手の石井一久(楽天GM)や岸孝之(楽天)から多くを学んだように、菊池から学んでいる選手がプロ野球界に多くいる。そうした出会いも含め、超一流に登り詰めるにはさまざまな要素を自分のエネルギーに変えることが不可欠だ。


 菊池が話していた言葉で、とりわけ印象的だったものがある。


「僕ら(のパフォーマンス)は90%が感覚で、残りの5%が環境で、残りの5%がデータだと僕は思っています。たかが5%だけど、プロ野球はそこの世界じゃないですか。たかが5%だけど、そこの伸びは本当に大きいと思います」


 2018年の春季キャンプが始まる数日前、菊池はトラックマンのデータを活用し、変化球のレベルを高めていくつもりだと話した。その時点では「全然使いこなせていない」と語っていたが、業界の第一人者と自ら契約し、チェンジアップとカーブ、スライダー、そしてストレートに磨きをかけた。

中島大輔
中島大輔

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』(新潮新書)。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』がミズノスポーツライター賞の優秀賞。

スポナビDo

イベント・大会一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント