菊池雄星、MLBへの夢を実現させた9年間 身近で取材を続けたライターからのエール

中島大輔

英語が雄星の新たな武器になる

入団会見では英語で質疑応答に対応した雄星。その語学力は大きな武器となる 【写真は共同】

 海を渡る2019年、菊池の新たな武器になるのは英語だろう。1月7日、西武の球団事務所を訪れた後に囲み取材に応じた菊池に、マリナーズでの入団会見で英語で答えたことに感動したと伝えると、ニッコリ笑った彼はこう答えた。

「まだ直接細かい話をできるレベルではないです。読書と映画好きで、和訳されると何か腑(ふ)に落ちない部分が結構あると昔から思っていました。『英語でコミュニケーションをとれたらいいんだろうな』と。まだそういうレベルではないんですけど、いずれ細かい話を英語でできるようになることで、本当に細かいところもわかるようになると思うので」

 筆者は現在の菊池と同じくらいの年齢で英国に移り住み、サッカーの中村俊輔(当時セルティック)を4年間取材した。英語がまるで話せないところからスタートし、何とか話せるようになったことで自分の世界が劇的に広がった。菊池が日本に住みながらにして会見で答えられるまでのレベルにした努力、そしてアスリートが公の場で英語で話した意義を、ほんの少しでも理解しているつもりだ。

 菊池にとって15歳の頃からの夢だったというメジャーリーグに活躍の場を移し、選手としてさらに伸びていける環境が整う。そこに英語というツールを掛け合わせることで、成長スピードが加速することは間違いない。

「今後、野球のためにも英語を勉強していくのか」と聞かれた菊池は、こう答えた。

「目の前に世界トップ選手がいる中でプレーさせていただけるわけなので、そういう選手から多くのものを吸収したい。野球に限らず、生活面、考え方、取り組み方も含めて吸収することができたら、僕自身の野球にもつながるのかなというのはあります」

MLBでどんな道を切り開くか

 世界トップレベルの猛者が集うメジャーリーグに、これまで多くの日本人が挑んできた。文字通り道を開いた野茂英雄(元ドジャースなど)はもちろん、すべての選手がそれぞれの道で開拓者になった。イチロー(マリナーズ)はヒットメーカー、松井秀喜(元ヤンキースなど)はパワーヒッター、黒田博樹(元ドジャースなど)はスタイルチェンジ、牧田和久(パドレス)はアンダースローなど、それぞれが独自の挑戦におけるパイオニアだ。

 果たして、菊池が切り開くのはどんな道だろうか。

「これは完全に個人的な思いではあるんですけど、高校1年生からずっと行きたかったと夢見ていた場所ですので、とにかく結果を出せるようにという思いがあります。それと大谷選手が岩手県出身でああやって活躍して、僕も刺激を受けています。僕も続くことで岩手だったり、東北だったり……。特に岩手県は野球人口がすごく減っていますので、僕が活躍することで野球を始める子どもたちが一人でも増えてくれればなという思いでいます。それは今までもそうでしたし、今後もそういうモチベーションでプレーしていきたいなと思っています」

 バンダイが2018年に行った「小中学生のスポーツに関する意識調査」で、好きなスポーツ選手で大谷がトップに輝いた。世界を舞台に活躍するアスリートが上位に来る傾向があり、大谷がメジャーで見せた活躍が子どもたちの心に響いた格好だ。

 菊池は常日頃から野球人口減少を危惧し、少しでも野球界の未来が明るくなるようにと心から望み、出身の岩手などで活動している。同じ志を持って活動する筆者としては、菊池に今後もそうした取り組みを継続してもらいつつ、さらにお願いしたいことがある。

 メジャーリーグの舞台で、菊池らしいピッチングをすることだ。そうして結果を残すことができれば、それは何よりの普及振興活動になる。

 自分自身の夢のため、そして野球界のため、最高の舞台で新たなパイオニアになってほしい。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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