年末彩るボクシング世界戦、今年は全6戦 伊藤、井上拓、井岡らの勝機は?
今年も、日本人ボクサーとして37年ぶりに米国から世界のベルトを持ち帰った伊藤雅雪(伴流)の凱旋(がいせん)試合をメインに据えた30日の東京・大田区総合体育館、また日本人初の世界4階級制覇を目指す井岡一翔(SANKYO)の“挑戦”が注目を集める大晦日のマカオ・ウィンパレスで、それぞれトリプル世界戦が開催される。全6試合をプレビューしよう。
30日は伊藤雅雪、井上拓真、拳四朗のトリプル世界戦
初防衛戦に臨む伊藤雅雪。米国から持ち帰ったベルトを守ることはできるか 【写真は共同】
◆WBO世界スーパーフェザー級タイトルマッチ
王者:伊藤雅雪(伴流)27歳/24勝12KO1敗1分
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1位:エフゲニー・チュプラコフ(ロシア)28歳/20勝10KO無敗
初防衛戦に臨む伊藤のテーマはズバリ“攻めのボクシング”。今年7月、フロリダ州キシミーで行われた無敗のクリストファー・ディアス(プエルトリコ)との王座決定戦。4年ほど前からロサンゼルスのルディ・エルナンデス、岡辺大介、両トレーナーのもとで苦手なインファイトの技術をさまざま学び続け、初めてひとつの形として結実させ勝利した。
今回も1カ月以上、ロサンゼルスで合宿を行い、攻めるスタイルに磨きをかけてきた。以前の伊藤はスピードとディフェンスに優れ、右カウンターが主武器。いわばリアクション主体のボクシングだったが「僕がすべてを決めて、試合をコントロールする」と宣言。ポイントに挙げるのが左ジャブである。
もちろん距離をキープするジャブではない。小柄なチュプラコフの「顔を上げ、しっかり上体を起こしたい」という伊藤の頭にあるのはプレッシャーを与える左。これで「近すぎず、遠すぎない自分の空間」を築ければ、伊藤の望む展開になる。
全勝挑戦者ながら、突出した武器は見当たらず、怖さの感じられないチュプラコフだが、6歳からグローブを握り、150戦120勝のアマチュアキャリアを含めた経験は侮れない。米国で近い将来のビッグマッチを見据える伊藤にとっては、勝ち方も重要。こまめに頭の位置を変え、足も動き、「的の絞りにくい」挑戦者をいかに自分の間合いに引き込めるか。カギは、その1点に尽きる。
兄・尚弥との世界4団体独占は井上拓真(左)の夢だ 【写真は共同】
2位:ペッチ・CPフレッシュマート(タイ)25歳/48勝33KO無敗
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5位:井上拓真(大橋)23歳/12勝3KO無敗
2年前に決まった世界初挑戦をケガで断念した拓真だが「ベテランとの試合も経験できたし、バンタム級の体にもなってきた。はるかに自信がある」という。ペッチ・CPフレッシュマートは数字の上では4倍ものキャリアを誇る。だが、それ以上に厳しいマッチメークを勝ち抜いてきた拓真のキャリアは濃い。
リーチのあるサウスポーのペッチ・CPフレッシュマートだが、動きは直線的。スピードで上回る拓真がしっかり出入りしながらペースをつかめば、勝機は見えてくる。現WBA王者の尚弥と兄弟でバンタム級の世界4団体独占に向けた第1歩を飾るため、キーになってくるのはスタミナを削り、決定打にもなるボディだろう。父の真吾トレーナーが「懐は深くない」と言うように打ち込むスキは必ずある。
拳四朗は元IBF王者を完封した前戦の再現で∨5を狙う 【Getty Images】
王者:拳四朗(BMB)26歳/14勝8KO無敗
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7位:サウル・フアレス(メキシコ)28歳/24勝13KO8敗2分
拳四朗は5度目の防衛戦。元東洋太平洋ライトヘビー級、元日本ミドル級王者の寺地永会長を父に持つ拳四朗と同じくフアレスの父と兄、2人のラウルも元ボクサー。兄は日本で2度、世界に挑み、通算4度の挑戦も実らなかった。自身2度目の成就を誓うサウルは家族の夢も背負う。
ポイントは距離。前回の4度目の防衛戦、拳四朗は元IBF王者のミラン・メリンド(フィリピン)を左ジャブとステップで完封し、7回TKO勝ち。「自分のボクシングが完成してきた感がある」と自信を持った。今回もまた「キレイな流れをつくって、後半にKOできれば」と再現を狙う。陣営は「メリンドよりパンチは当てにくい」と警戒するが、マイペースを貫ければ4連続KO防衛も見えてくる。