54クラブのホームゲームを観戦した男 ひらちゃん流Jリーグの楽しみ方<前編>

宇都宮徹壱

約12年をかけて、Jクラブ54チームのホームゲームを全て観戦した 【宇都宮徹壱】

「90分間だけがサッカーだなんてもったいない」──そんなコンセプトのサッカー本がこのほど発売された。タイトルは『平畠啓史 Jリーグ54クラブ巡礼 〜ひらちゃん流Jリーグの楽しみ方〜』。Jリーグファンにはお馴染みのお笑いタレント、平畠啓史さんが全国に54あるJクラブを訪ね歩くという、そのまんまのタイトルである。現在、J1からJ3まで所属するすべてのクラブを踏破する、そのこと自体が偉業であると思うが、この本の素晴らしさはそれだけにとどまらない。

 Jリーグ観戦の楽しみとは何か? もちろん、ピッチ上で繰り広げられる試合そのものが、メーンディッシュである。応援しているチームが勝てばもちろんうれしいし、監督の采配や両チームの知力を尽くしたベンチワーク、さらには代表クラスの卓越したテクニックやベテランの心憎い妙技や若手のほとばしる勢いを現地で体感するのも楽しい。だが、それだけではもったいない。試合がメーンディッシュとすれば、オードブルはサポーターによるチャントやコレオグラフィー、そしてデザートに当たるのがグルメやマスコット。せっかくスタジアムにまで来たのなら、やはりフルコースでJリーグを楽しみたい。

 本書は、そんなJリーグファンのために書かれた、といっても過言ではない。一見すると、アウェーに遠征するサポーターのためのガイドブックのような印象だが、著者が平畠さんということなら通り一遍のガイドブックに終わるはずがない。歴史のうんちくあり、小ネタあり、そしてほろっとくるいい話あり。Jリーグのさまざまな魅力が、ぎゅっと一冊に詰まった、『平畠啓史 Jリーグ54クラブ巡礼』。さっそく著者の平畠さんに、知られざる制作の裏側について語っていただくことにしよう。

足かけ12年で54クラブをコンプリート

──『平畠啓史 Jリーグ54クラブ巡礼 〜ひらちゃん流Jリーグの楽しみ方〜』を興味深く読ませていただきました。手にとってみて印象的だったのが、表紙に平畠さんの顔がドンと置かれていたことです。今や平畠さんの存在って、完全にJリーグの風景の中に溶け込んでいて、ひとつのアイコンとなっているじゃないですか。そのことが、この表紙からもひしひしと感じられます。

 そうですか? 自分ではそんなに意識はないですけれど、もしそう思っていただいているのであればうれしいような、申し訳ないような(苦笑)。

──それにしても、54あるJクラブのホームゲームをコンプリートするというのは、なかなかできることではないと思います。どれくらいの期間がかかりましたか?

 足かけ12年ぐらいかかっているんじゃないですかね。ただし最初からコンプリートすることが目的ではなくて、スカパー!でのお仕事であちこち行かせていただいているうちに、「あそこはまだ行っていないな」みたいな感じにはなりましたね。この本の話が決まったときには、福島(ユナイテッドFC)、FC琉球、そして長野(パルセイロ)を残すのみだったんですよ。ですから、まず福島に行って、それから土日で琉球と長野をハシゴしました。

──村井(満)チェアマン並みのフットワークの軽さですね(笑)。この本は54のJクラブを、北は北海道コンサドーレ札幌から南はFC琉球まで紹介しているんですが、J1・J2・J3というカテゴリーに関係なくフラットに扱っていることに好感が持てました。平畠さんご自身、カテゴリーとかクラブの大小とか、あまり関係なくJリーグを楽しんでいるように感じられるのですが、その点はいかがでしょうか?

 そうですね。自分の中では、「J1だから」とか「J2だから」という意識はほとんどないですね。5万人入るスタジアムでも、地方のひなびた雰囲気のスタジアムも、どちらもJリーグですし。たまに地方クラブに行くと「なんでわざわざこんなゲームを見に来たんですか?」って、クラブの人から聞かれることがあります(笑)。その人からしたら「他にいいカードがいっぱいあるのに」って思うんでしょうね。でも僕は、どっちかというと「これは誰も注目していないんちゃうかな」とか「あそこの売店の人に最近会ってないな」とか、そういう発想でカードを選んでいるところはあります。

ザスパクサツ群馬のおすすめ4位は「塾サボってやる!」

たっぷりとJリーグの魅力を語ってくれた平畠啓史さん 【宇都宮徹壱】

──この本ですが、54クラブそれぞれの紹介ページ、そしてクラブに関する平畠さんのコラム、それぞれ見開き2ページずつという構成になっています。この紹介ページの情報の密度と濃度が、とにかく半端ないんですよね(笑)。まず目を引くのが、「ひらちゃんのおすすめTOP5」。観光名所だったり、グルメだったり、チャントだったり。これはどうやって決めているのでしょうか?

 ランク付けそのものには、そんなに意味はないです。たくさんある要素の中で、自分で「これは!」と思うものを5つ絞ったという感じです。

──笑ってしまったのが、ザスパクサツ群馬の4位にランクされた「塾サボってやる!」(笑)。これは昨年、連敗続きで試合後にサポーターが居残った時に、高校生サポが放った言葉です。すると周りの大人たちが「塾は行きなさい」と諭したというオチがつくわけですが。

 たとえば何十年後に、群馬がJ1で優勝争いをするようなクラブになったとするじゃないですか。その時に、この本を読み返したファンが「昔はウチもJ2ではなかなか勝てなくて、高校生から『塾サボってやる!』とか言われていたんだ」と知ったら、面白いじゃないですか(笑)。そういうこともイメージしながら、僕はこの本を作りました。

──そういう「歴史の積み重ね」という視点も、Jリーグを語る上では大切ですよね。その意味でもうひとつ、個人的にいいなって思ったのが「Jリーグ初GOALはこの選手」。浦和レッズが望月聡、川崎フロンターレが浦田尚希、ガンバ大阪が和田昌裕。これって、当のサポーターも知らなかったりするんじゃないですかね。

 Jリーグが好きな人に読んでいただきたい本なので、やっぱり記録の部分も大切にしたいなと思っていました。たとえばJリーグのゴール第1号がヴェルディ(川崎=当時)のヘニー・マイヤーというのは有名ですけれど、それぞれのクラブの初ゴールって意外と知られていないですよね。ですから、このコーナーに関しては自分で一生懸命調べました。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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