「ドイツやイタリアとも違う魅力がある」ひらちゃん流Jリーグの楽しみ方<後編>

宇都宮徹壱

ひらちゃんお気に入りのマスコットとは?

平畠さんが「すごく好き」と話す、川崎フロンターレのマスコット(左からコムゾー、カブレラ、ふろん太) 【宇都宮徹壱】

──スタジアム観戦の楽しみって、ゲーム以外にもいろいろあります。分かりやすいところでいえば、スタグル(スタジアムグルメ)とマスコットですが、それぞれについて平畠さんの思うところを語っていただきたいと思います。まずスタグルですが、一般のお客さんと同じように並んでいるんでしょうか?

 もちろん並びます。あんまり待ち時間が長すぎるのは嫌ですけれど、並んでいる間にいろいろな方とおしゃべりするのはけっこう好きですね。

──この本にも書かれていましたが、平畠さんはスタグルのお店の方とけっこう親しくなることが多いですよね。何かコツみたいなものはあるんでしょうか(笑)。

 コツですか? 「よし、あの人と仲良なったろ」みたいな気はさらさらないですよ。たまたま話しているうちに仲良くなって、気がついたら自宅にお饅頭とかプリンとか送ってくれるようになるという(笑)。ありがたいことですよね。だってサッカーと関わっていなかったら、そういう人たちと出会うことがなかったわけですから。

──おっしゃるとおりです。マスコットについてはいかがでしょう?

 何だか申し訳ない話なのですが、テレビに出ているせいか、マスコットのほうが僕を見つけて「一緒に写真撮って!」って近寄ってくるんですよ。普通、逆ですよね(笑)。

──それってうらやましすぎますよ! 私は同業者の中でおそらく一番、マスコットの写真を積極的に撮っていると自負しているんですけれど、いまだに彼らに認められていませんから(笑)。ちなみに、平畠さんのお気に入りのマスコットを挙げるとしたら?

 川崎フロンターレの3体(ふろん太、カブレラ、コムゾー)は、すごく好きですね。選手のアップが終わって、キックオフ前の誰もいないピッチ上に、あの3体が出てくるじゃないですか。その間、BGMとか一切ない中で、言ってみれば自由演技の状態なわけですよ(笑)。あの瞬間というのが、僕はすっごく好き! それで3体が「今日も頑張ろうね」みたいな仕草を見せるんですよ。あれを見ると、僕はもう泣きそうになるんです。360度、見られている中で、あれができるのはすごい!

──平畠さんがそこまでマスコット通だとは思いませんでした(笑)。

 記者席では「今日の(中村)憲剛はどうかな」みたいな話をしているわけですよ。そういう中、僕はずっとマスコットを見つめながら、ひとりで感動していますからね(笑)。

あらためて考える「Jリーグがある幸せ」

──いろいろ話は尽きないですが、そろそろまとめに入りましょう。私はJリーグが日本社会に与えた影響のひとつに「東京を介さない地方都市のダイレクトな交流が生まれたこと」を挙げたいと思っています。たとえば平畠さんは関西のご出身ですが、関西の人はよほどの事情がない限り、柏とか平塚とか宇都宮とかに行かないと思うんですよ。

 まあ、行かないでしょうね(苦笑)。

──それまでの人生で縁もゆかりもなかった土地に、「そこでサッカーの試合があるから」という理由で訪れて、ついでにお城を見たり温泉につかったり、あるいは友だちができたりするかもしれない。そういった地方と地方の交流って、Jリーグができる以前はほとんどなかったと思うんですよね。

 僕はJリーグがなかったら、たぶん「鳥栖」とか(甲府の)「小瀬」とか読めなかったと思うんですよね。そもそも大阪とか名古屋とか福岡とかではない、そんなに大きくない都市で1万人以上が集まるお祭りがあって、よそ者である僕らがそこにお邪魔する。そういうのが、全国津々浦々にあるって、すごいことだと思いませんか?

──ヨーロッパではそれが当たり前の光景だったわけですが、日本でもJリーグが誕生して四半世紀を経て、レベルはさておき、ようやくそれに近い状況になったわけですよ。そのこと自体、大いに評価されてしかるべきですよね。

 僕自身、スペインのサッカーばかり見ていた頃は、レアル・マドリーとかバルセロナとかベティスとか好きだったけれど、今のJリーグにはスペインやドイツやイタリアとも違う、独自の魅力や空気感みたいなものは確実にできているんじゃないですかね。それをより多くの人に楽しんでもらいたいし、この本がそのための一助になればいいかなって思います。

──私もよく地方のJクラブを取材しますけれど、行く先々で幸せの「おすそ分け」をいただいているような気分になりますね。それなりに海外取材も経験していますが、これほど地域色が豊かな国内リーグもめずらしいと思いますよ。

 ありがたいことに、僕も行く先々で歓迎していただきますけど、僕自身は「お邪魔してます」って言うんですよ。地元の人たちには本当に申し訳ないけれど、いいところをつまみ食いさせてもらっている感じ(笑)。でも、それもまたJリーグの楽しさだと思っています。

<この稿、了>

書籍紹介『平畠啓史

書籍『平畠啓史 Jリーグ54クラブ巡礼 〜ひらちゃん流Jリーグの楽しみ方〜』 【『平畠啓史 Jリーグ54クラブ巡礼 〜ひらちゃん流Jリーグの楽しみ方〜』/ヨシモトブックス 刊】

・中村憲剛選手(川崎フロンターレ)との特別対談収録!  
・Jリーグへの愛がほとばしりすぎて泣ける、全54クラブの魅力をつづった珠玉のコラム
・スタジアム、グルメ、イベント、おみやげ、寄り道……全チームの「おすすめTOP5」

プライベートでもスタジアムに足繁く通い、芸人イチのJリーグ通と言われている平畠啓史だからこそ知っているJリーグ全54チームの情報、魅力などを各チームごとに紹介!
縁の下の力持ち、全チームのスタジアムDJさんが一覧で見られるのはこの本だけ!
Jリーグ観戦にはかかせない一冊♪ 

平畠啓史本人コメント: 
「選手の名前を知らなくてもオフサイドがわからなくても、Jリーグそしてスタジアムは楽しい」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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