新潟が「アルビらしさ」を取り戻した理由 J2・J3漫遊記 アルビレックス新潟<前編>

宇都宮徹壱

ビッグスワンに響き渡る「ハルヲスイング」

この日、2ゴールを挙げた渡邉新を中心に肩を組み、「ハルヲスイング」を歌う新潟の選手たち 【宇都宮徹壱】

「ニイガタ ニイガタ ららららー ららららー。ニイガタ ニイガタ ららららー ららららー。オレたちの誇り オーニイガター。ニイガタ ニイガタ 勝利をつかめー」

 選手とサポーターが向かい合ってそれぞれ肩を組み、大阪万博(1970年)のテーマソング『世界の国からこんにちは』のメロディーで唱和する、アルビレックス新潟の勝利の歌。原曲を歌い上げた三波春夫の名前にあやかり、サポーターの間では「ハルヲスイング」と呼ばれている。ここ最近、サポーターの間では「今日も『ハルヲスイング』を歌うぞ!」が、勝利の合言葉となっていた。10月28日のJ2リーグ第39節、新潟はホームのデンカビッグスワンスタジアムに3位のFC町田ゼルビアを迎えていた。

 この日の新潟は前半からゲームのペースを作り、たびたびチャンスを演出するも0−0でハーフタイムを迎える。試合が動いたのは後半11分。新潟は右サイドに侵入した川口尚紀がクロスを供給。フリーで走り込んだ渡邉新太が受けると、1人かわして右足を振り抜き、弾道はゴール左上に吸い込まれていった。先制ゴールから5分後にも、新潟はPKのチャンスを獲得。これを再び渡邉が冷静に決めて、リードを2点に広げる。結局、この2点を守り切った新潟が勝利。勝ち点3を加えて、順位を15位から一つ上げて14位とした。

 町田戦の勝利によって、新潟は9月1日の第31節から7勝2分けの負けなし。しかし8月の段階では、悪夢の6連敗を喫して19位にまで沈み、「このままではJ3に降格」という危険水域に達していた。

 順位のみならず、チームを取り巻く状態も最悪だった。まず、キャプテンだった磯村亮太がV・ファーレン長崎に完全移籍。新潟のキャプテンの移籍は、16年の大井健太郎(→ジュビロ磐田)以来、3年連続4人目である。8月8日には、鈴木政一監督が解任。シーズン途中での解任は、これで3年連続となった。そして9月4日には、中野幸夫社長の今季限りの退任も発表されている。

 今季、すでにJ1参入プレーオフ出場の可能性はなくなった。それでも町田戦には、1万6091人もの観客が集まり、9試合負けなしで「ハルヲスイング」を皆で歌えるまでに復調した。このV字回復の背景にあるものは何か。今回の漫遊記では、オン・ザ・ピッチとオフ・ザ・ピッチ、両方の視点からアプローチしてみることにしたい。

低迷とV字回復の背景にあるもの

15年ぶりのJ2を戦うことになった新潟。大きな戦力ダウンもなく「1年でJ1復帰」を目指したが…… 【宇都宮徹壱】

 昨シーズンのJ1では7勝7分け20敗の17位となり、クラブ史上初の降格を経験することとなった新潟。J2に帰ってくるのは、実に15年ぶりのことである。降格経験の乏しいJ1クラブの関係者が、必ず口にする「1年でJ1復帰」という言葉は、今季の新潟でも共有されていた。まさかJ3降格の危機に直面するとは、クラブはもちろんサポーターも夢にも思わなかったことだろう。

 ある古参サポーターの証言。

「本来の力をもってすれば、最近の好調ぶりは当然だと思いますよ。(J1から)落ちてくるチームっていろいろあるけれど、新潟は降格が決まってからは4連勝したし、あの時の選手もかなり残ってくれたんです。結局のところ、毎年のようにチーム編成に失敗しているんですよね。降格した一番の理由は、まさにそれ。去年は早々に降格が決まっていたんだから、ちゃんとJ2仕様のチームを作っていればよかったんですよ」

 今季から指揮を執っていた鈴木監督は、ジュビロ磐田の黄金期を築いた人物。しかしJ2に降格したクラブを、再びJ1に引き上げるというミッションに相応しい人選だったかと問われれば、やはり疑問符がつく。

 別のサポーターの証言。

「鈴木さんは選手の判断に重きを置いていたんですけれど、J2の場合は特に守備面で約束事を決めておいたほうがいい。監督が片渕(浩一郎)さんになって、そのあたりが整理されましたね。あと(ボランチの)カウエの加入も大きかった。ボールが収まるし、極端に前に出ていくこともないし、加藤大との関係性もいい。そのあたりは神田(勝夫)さんが強化部長に復帰したことが大きかったんじゃないですかね」

 その神田強化部長、昨シーズンに降格の責任をとって退任となったが、9月の人事刷新により現職に復帰している。強化部長としての自身の役割について、後日電話で問い合わせたところ、このような答えが返ってきた。

「カウエの獲得については、私が着任した時にはすでに移籍のウィンドウが閉まっていましたので、前任の木村(康彦)強化部長の仕事ですね。片渕の監督就任についても、中野社長と木村強化部長が決めたことです。私がやったことといえば、連敗続きで苦しんでいたフロントスタッフの声に耳を傾けることくらいですかね。ただ、現場のスタッフに対しては『とにかく片渕監督を支えてほしい。そして、目標はJ2残留』とはっきり伝えました。あとは監督にすべてを任せ、選手を信じ、そして祈るだけでしたね」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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