ダンスインザダークからハルウララまで サラブレッドの知られざる「その後」
競走馬にとってのセカンドキャリアとは?
ハルウララとホースクリニシャンの宮田朋典氏。穏やかなのんびりとしたマーサファームの環境は、今のハルウララにとって天国だ 【teramix】
競走馬の宿命といえばそれまでだが、登録を抹消されると現役時代に比べてはるかにマスコミへの露出度が少なくなる。まさに馬版の「あの人は、今」特集ということだが、レースでお世話になった競馬ファンであれば当然のこと、競馬にそれほど詳しくない人でもサラブレッドたちのセカンドキャリアの軌跡には興味を覚えるはずだ。それぞれに歩む道は違っても、そこには新たな人との出会いがあり新たなステージが用意されている。そのステージで現役時代と同じように、あるいは現役時代以上に輝きを放つ馬たち。そのセカンドキャリアはもはや余生などというものではなく、日々、煌きを放ちながら自分らしく生きている。
取材に同行してくれたのは、ディープインパクトやキタサンブラックなどの著名な競走馬から一般のクラブ馬まで、馬の問題行動を矯正するスペシャリストとして馬のメンタル管理を行うホースクリニシャンの宮田朋典氏。それぞれの馬たちがどういう性格を持っていて、それがどのように影響して現在のセカンドキャリアに結びついているのか、そのあたりの流れが宮田氏の馬診断を通すことでいっそう明確に見えてくる。連載のプロローグとして、今回取材した5頭の馬についてだけではなく、現在のサラブレッドたちが置かれた状況、そして未来も含めて話を伺った。
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とにかく速く走ることに特化した、サラブレッドの血
種牡馬からも解放され、悠々自適の放牧生活を満喫しているダンスインザダーク。功労馬に対する社台グループの理念もあり、引退馬として恵まれた環境で暮らしている 【teramix】
宮田 そうですね。それはそれでとても良いことですが、引退馬を受け入れる側の環境がもっと広がっていかないと、彼らのセカンドキャリア創出もいずれ行き詰まってしまいますね。
──毎年5000頭以上の競走馬が登録抹消され、次の行き場所を模索しています。この数に対して受入先が少ないということですか。
宮田 やはりいちばん多いのは乗馬への転用ということになるのでしょうが、そのときに障害飛越競技にしても馬場馬術競技にしても競技会に出して上位の成績をとれる馬、1センチでも高く飛べる馬、そういう能力を持った馬を乗馬クラブでは探そうとしますね。でも実際は、その期待に応えられる高い能力のサラブレッドというのはそんなにたくさんいないんです。だから競技会で勝てる馬がほしいということになると、強い選手になればなるほど外馬に関心が向いてしまいます。勝ちたいと思えば、それは当然のことですよね。そういった意味でも競技会志向が強い乗馬クラブだけでは難しいですね。
──もともとサラブレッドという馬の能力とは、どういうものなのでしょうか。
宮田 最近ではサラブレッドの体格も変わってきたので一概に言えなくなりましたが、サラブレッドとはとにかく速く走ることを目的にアラブ種やハンター種などを交配させて生み出された馬です。Thorough(完璧な)+Bred(品種、もしくは育ち)という2つの言葉を組み合わせたのがサラブレッド。肩や腰などの筋肉の付き方が速く水平移動をすることに向いていますから、障害飛越のようにジャンプするとか、馬場馬術のように真上に身体を引っ張り上げるような動きは基本的に苦手ですね。馬が自主的に飛び越える障害は80センチぐらいまでが限界で、それ以上高い障害を飛ばせ続けると故障することが多いです。もっとも近年ではこれまで以上の筋力をつけたサラブレッドが登場しはじめています。終戦直後と現代の子どもたちの体力比較みたいなものでしょう。こういう馬なら競技会に対応できる能力を持っています。