平穏な日々を送ることができないレアル 暫定監督に求められる使命とは

「末期的症状」から抜け出せないレアル

7日のCLグループリーグでは快勝したが、依然として漂う空気は危ういままだ 【写真:ロイター/アフロ】

 最近サンティアゴ・ベルナベウで行われたレアル・マドリーのホームゲームに足を運んだ人たちは、末期的な危機に陥っていたチームの現状を肌で感じることができたはずだ。

 試合前のメンバー紹介で響く熱意の感じられない拍手。FWガレス・ベイルやDFセルヒオ・ラモスに向けられる指笛。MFルカ・モドリッチがボールに触れるたびに起こる不満げなざわめき。これらの反応からは、ファンの怒りが耐え難いレベルまで蓄積されていることが読み取れた。

 カンプノウでバルセロナに1−5で大敗した翌日、レアル・マドリーはジュレン・ロペテギ前監督を解任した。彼の指揮下で残した結果は散々で、チームが負のスパイラルから抜け出せずにいたことは確かだ。

 だがこれまで何度も繰り返されてきた解任劇と同様に、今回のそれもまるでクラブがそうする必要性に駆られているかのように、自ら終わりのないスキャンダルを生み出し続けているような印象を受けた。

 むしろ、ここまでファンが神経質な反応を見せる原因はそれ以外に考えられない。現在のチームを構成するのは、チャンピオンズリーグ(CL)3連覇を含めた素晴らしい結果をクラブにもたらしてきた選手たちである。セルヒオ・ラモスら古株の選手に至っては、5年間で4度もヨーロッパ王者に輝いている。それはアルフレド・ディ・ステファノやフランシスコ・ヘント、フェレンツ・プスカシュらの時代にしか成し得なかった偉業だというのに。

 全てを勝ち取った選手たちがモチベーションを失い、勝つために全力を尽くさなくなったという一部メディアの主張も理解に苦しむものだ。

 果たして選手はどれだけ成功を手にした時点で野心を失ってしまうものなのか。例えば2014年にカルロ・アンチェロッティの指揮下で12年ぶりのビッグイヤーを手にした際はどうだったのか。その後も彼らは勝ち続け、ジネディーヌ・ジダンとともに3連覇を成し遂げている。ならば3年も連続で優勝すれば十分と考え、やる気を失ってしまうものなのか。

問題を生み出し続けてきたペレス会長

 確かなのは、レアル・マドリーが抱えるこの問題の元凶はファンやメディアにあるわけではないことだ。いくつかの短い移行期を挟み、かれこれ20年近くも前から不必要な問題を生み出し続けてきたのは他でもない、クラブを牛耳るフロレンティーノ・ペレス会長自身である。

 2000年7月、ペレスはバルセロナのアイドルだったルイス・フィーゴの獲得を公約に掲げ、レアル・マドリーの会長選挙で当選を果たした。以降彼は、クラブ経営はいち企業のそれと同じように行うべきだと頑なに信じてきた。バルセロナやアスレティック・ビルバオと同じく、レアル・マドリーもソシオ(クラブ会員)が経営権を持つ民間の非営利団体であるにも関わらずだ。

 2002−03シーズンにリーグ優勝を果たした後、ペレスは大きな過ちを犯した。太りすぎ、時代遅れの口ひげを蓄えた容姿が魅力に欠けるという理由で、スターぞろいのロッカールームを巧みにまとめ上げてきたビセンテ・デルボスケ監督との契約を延長しなかったのだ。

 その結果レアル・マドリーは、2000年と2002年にCLを制したロス・ガラクティコス(銀河系軍団)の黄金期に自ら幕を降ろすことになった。ユニホームが売れない選手だからという理由で年俸アップを拒否し、当時のチームにとって不可欠な存在だったクロード・マケレレを手放したことも、チームの崩壊に拍車をかけた。

 その後レアル・マドリーはデルボスケのような監督を見つけ出すまでに多くの歳月を要した。それだけでなく、ジョゼ・モウリーニョの指揮下ではクラブのイメージを世界規模で低下させている。そしてようやく見いだしたアンチェロッティやジダンのような適役もあっさりと手放し、自ら困難な状況を招いてきた。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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