連載:スポーツマネジャーという仕事

東京五輪へ最初のチーム準備を開始 7人制ラグビーの13番目のチームとは?

構成:スポーツナビ

IFビジットではワールドラグビーの関係者とともにホテルの視察を行った(右が松尾さん) 【Photo by Tokyo 2020】

 東京2020オリンピックに向け、「スポーツマネジャー」としてラグビーの運営準備を進める松尾エイミさん。大会組織委員会における競技の運営責任者として、国内および国際競技連盟等との調整役を務めている。

 松尾さんはこの秋、「IFビジット」と呼ばれる国際競技連盟(IF)との協議に参加し、国内視察にも同行した。普段あまり語られることのない、大会に向けての重要な“準備”について紹介していただいた。

選手村を使わない“アスリート”

 前回のコラムから約2カ月が経ちました。この間に、大変重要な業務の一つである“チーム”の来日調整がスタートしました。チームと言っても今回は「マッチオフィシャル(レフリー)チーム」です。

 競技によってレフリー・審判の特性・役割は変わってきます。ラグビーのレフリーは、選手が7分ハーフでプレーしている中、交代もなく14分間のダイナミックなゲームをコントロールします。試合中走り続け、フィットネスの高さが必要とされる彼らを運営サイドは“アスリート”と捉えて準備を進めています。オリンピックの参加チームは男女各12チームですが、私たちの感覚ではレフリーは“13番目のチーム”。ですから今回、本大会に向けて1チーム目の調整に着手した、という感じです。

 先日実施された「IFビジット」では、来日したワールドラグビー(ラグビーの国際統括団体)の関係者とともに、ホテルの視察を行いました。アスリートは選手村に宿泊しますが、ITO(国際技術役員)と呼ばれる競技運営周りの役員や、ドクター、レフリーなどは民間のホテルに宿泊します。今回はそのための事前視察でした。

 ホテルの準備で重要なのは、トレーニングジムとミーティングエリアの有無です。あまり知られていませんが、ラグビーのレフリーチームにはアスリートチームさながらの専属スタッフが存在します。フルタイムのレフリーコーチ、ストレングス&コンディショニングコーチや食事の管理をする栄養士、アナリスト、マネジャー、ドクター、フィジオセラピスト(理学療法士)などが、レフリーを支えています。前回のリオデジャネイロ大会を例に挙げると、レフリーだけで24名。そこにスタッフが数名つき、30名ほどがレフリーチームとして活動することになります。

非常に高いフィットネスや持久力が要求される。運営側はレフリーを“アスリート”として捉えている(写真はHSBC World Rugby Sevens Series ロンドン大会のもの) 【写真:Mike Lee - KLC fotos for World Rugby】

 また、レフリーが大会前の準備を行うために、ホテルには大きな画面で試合映像を確認したり、アナリストが分析したレフリーのパフォーマンスについてコーチなどとディスカッションするミーティングスペースが必要です。さらに、フィジオセラピストによるマッサージエリアを設置するなど、出場チームと同様の環境が求められます。

 彼らには座学の時間も必要です。ルール変更などがあれば最も敏感になって学ばなければいけませんし、大会ごとの基準や判定方針などもミーティングで確認し合っています。14分間の試合を公平にジャッジするための非常に高い身体能力だけでなく、知識や判断基準の整理などを徹底的に行わなければなりません。

 今回の視察でワールドラグビーが一番気にしていたのはミーティングエリアの大きさでした。レフリーにとって、練習グラウンドはもちろん、ホテルで過ごす時間も非常に重要なのです。

 ちなみに、ワールドラグビーに求められた条件には、「ミーティングルームに自然光が入ること」というものもありました。レフリーにとってホテルで過ごす時間がどれだけ重要であるか、このエピソードからも一端を垣間見られるのではないでしょうか。

レフリーの会話を観戦のお供に

レフリーはジャージの下に、トランシーバーやマイクなどの機材が装着された特別なベストを着用している 【写真:北九州セブンズより】

 ラグビーのレフリーの特徴としてあまり知られていないものには、レフリーウエアもあります。彼らは特別なベストをジャージの下に着用していて、その中にはトランシーバーやマイクなどの機材が装着されています。このベストは1人で着用するのが難しく、重量もあるのでテクニシャンがサポートしながら着用します。セブンズでの利用は少ないですが、15人制の試合ではさらにレフリーカメラを付けたりもします。

 中でも重要なのがトランシーバーです。レフリーの音声はテレビやラジオにつながっており、レフリーと選手のやりとりなどを聞くことができるのもラグビーのユニークな文化かもしれません。ラグビーワールドカップなどでは小さなラジオを試合会場で販売していて、チャンネルを合わせると各国のテレビ中継のコメンタリーや、レフリーマイクを聞きながら観戦することができたりもします。

 レフリーマイクをオープンにするという文化は以前からあり、時として選手が注意を受けているシーンなどもまざまざと聞くことができます。珍しいことかもしれませんが、ラグビーのノーサイドの精神やフェアプレーの精神、相手へのリスペクト、やりとりを隠す必要性がないこと、レフリーも選手も自分たちの発言及び発言力について理解していることが、レフリーマイクをオープンにする理由ではないでしょうか。

 重い機材を背負って懸命に走っているレフリーにもぜひ注目していただき、生の声を聴きながら観戦していただけたら、より観戦の面白みが広がるのではないかと思います。

プロフィール

松尾 エイミ(まつお えいみ)
1981年、神奈川県出身。17歳から22歳まで、ニュージーランド・オークランド、米国・南カリフォルニアで学生時代を過ごす。帰国後、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会に勤務。直近では大会運営部にて来日する各対戦国のチームサービスに関する業務を担当。2016年5月より公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に勤務。
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