川島永嗣の恩師が語るGKの神髄<第5回> 守護神の攻撃参加がチームを進化させる

積極的な攻撃参加は、GKにとっての必須能力になりつつある 【写真:ロイター/アフロ】

 サッカーにおいて異質であり、同時に重要なポジションであるゴールキーパー(GK)。大舞台になればなるほど、良い意味でも悪い意味でも、必ず話題にのぼる「守護神」の神髄を、ジャンルイジ・ブッフォンや川島永嗣の恩師であるイタリアの名GKコーチ、エルメス・フルゴーニ氏が全6回の短期集中連載で語る。(取材・構成:片野道郎)

素早いフィードとパス回しへの参加が求められる

 GKというポジションが、ピッチに立つ11人の中で最も守備的な仕事であることは間違いない。GKは守備のためだけに存在していると考える向きも少なくない。攻撃に関わる仕事といえば、これまではゴールキックや、ボールをキャッチした後のフィード程度だった。

 しかし近年は、GKに対してもより積極的な攻撃参加が求められるようになってきている。具体的には、プレーの流れの中でGKがボールをキャッチした後の素早いフィード、チームが自陣から攻撃をビルドアップする時のパス回しへの参加という2つが挙げられる。
 
 ボールをキャッチしたGKが素早く最終ラインにスローでフィードすれば、相手の守備陣形が整う前に攻撃を組み立てる余地が生まれる。ボールをキャッチする前から敵と味方の配置を把握し、より敵が少なくプレーを展開しやすいサイドにボールをフィードできれば、相手のプレスを受けずに攻撃を組み立てる起点が生まれる。

 これは最終ラインからパスをつないで攻撃を組み立てる戦術を採用しているチームのGKにとっては、非常に重要な資質である。ただしイタリアには、とりあえずボールを自軍のゴールから遠ざけるために、いったん間を置いてチームを中盤まで押し上げてから、長いパントキックを蹴る戦術を好む監督が少なくなかった。これは前線に空中戦に強いFWがいる場合は有効だが、そうでなければ取り戻したボールをすぐ相手にプレゼントしてしまうようなものであり、あまり効率のいい選択とは言えない。

 しかし同じパントキックでも、GKがボールをキャッチした直後に間髪を入れず正確なボールを前線にフィードできれば、味方のDFラインにスローでフィードするよりずっと効果的に、最短距離で相手ゴールに迫ることができる。ただしそのためには、GKがロングキックの技術と精度を磨くことはもちろん、監督がチームの戦術としてそれを取り入れ、前線にスピードのあるFWを置き、その動きとシンクロさせてプレーを展開する必要がある。

GKからの攻撃を有効に使うマンチェスター・シティ

マンチェスター・シティの守護神・エデルソン(中央)は、世界屈指のフィード技術を持つ 【写真:ロイター/アフロ】

 ヘディングの競り合いに強いセンターフォワードの頭を狙ってフィードを送り、ヘディングで裏のスペースに流したボールをセカンドトップがシュート、というのは昔からある典型的な攻撃パターンだ。しかし、GKのロングフィードとスピードのあるFWの動きをシンクロさせ、裏のスペースを狙って一気に相手ゴールに迫るという攻撃を意識的に採用するチームが増えてきたのは、ごくごく最近のことだ。
 
 例えば、ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティ(マンC)は、エデルソンが持つ、低く速い弾道で正確極まりないロングフィードを活用して、前線で裏に抜け出したアタッカー(とりわけウイングのレロイ・サネとラヒーム・スターリング)に直接ボールを届けるという選択肢を持つ。マンCは、この後詳しく述べる後方からのビルドアップへのこだわりが最も強いチームの1つだ。しかし敵がマンツーマンで最終ラインにハイプレスを仕掛けて、前線のアタッカーと敵の最終ラインが同数の関係になった時には、1対1で敵DFをぶっちぎるウイングのスピードを生かして一気にゴールへ迫るため、エデルソンのロングフィードを使う。

 この低く速い弾道で飛ばす前線へのロングフィードは、ブラジルのGK育成/トレーニングメソッドが生み出したものだと思う。イタリアにそれを持ち込んだのは、90年代初めにパルマへと移籍してきた当時のブラジル代表正GKタファレルだった。インステップの浅め、ややアウトにかける形でボールに回転を与え、低い弾道でややスライスする速いボールを蹴るのは、それまでイタリアでは誰も知らないテクニックだった。

 このボールは、相手のDFにとっては非常に目測が難しいが、FWがそれを知っていれば一気に裏を取ってゴールに直進できる確率が高くなる。私はタファレルを見てからすぐにこのキックを練習に取り入れた。ジャンルイジ・ブッフォンもこのタイプのフィードを身につけているが、当時のタファレルや現ブラジル代表のエデルソンやアリソン(リバプール)ほど、強く精度の高いボールではない。GKなら誰でもこのボールが蹴れるわけではないという事実が示す通り、育成年代からのトレーニングだけでなく、それだけのキックが蹴れるフィジカル能力(パワー、調整力)を持っているかどうかで決まってくる部分が小さくない。

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著者プロフィール

1948年2月3日生まれ。パルマで当時13歳だったジャンルイジ・ブッフォンを見出し、一流に育てた名コーチ。その後ヴェローナ、レッジーナ、チェゼーナ、カリアリ、パルマのGKコーチを歴任。日本代表GK川島永嗣とは01年のイタリア留学を受け容れて以来恩師とも呼ぶべき関係にあり、14年にはFC東京のGKテクニカルアドバイザーも務めるなど日本とも縁が深い。

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