愛のノーヒットノーラン・ラブ完封 「競馬巴投げ!第177回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

姫路競馬場の改修、復活の喜びを語りたかったのだが

 9月23日、神戸新聞杯の日、いまはJRAと園田の場外売場に特化している姫路競馬場に行ってきた。園田より広いダートコースを有しながら、もう5年は競馬は開催されていない。てっきり、この広い馬場は取りつぶされて、マンションでも建ち、場外馬券売場だけ残るのだろうと想像していた。

[番外写真1]姫路競馬場は復活に向けて大掛かりな改修工事が行われている 【写真:乗峯栄一】

 それが行ってみると、大がかりな修復工事が行われていて、スタンドも耐震工事と共に広くなるし[番外写真1]、馬場内も大きな穴が掘られていて、これは近くを流れる市川などが万が一氾濫したときのための貯水池として利用されるらしい。来秋には復活開催されるということだ。一つの都道府県に三つ以上競馬場があるのは、北海道と兵庫県(阪神、園田、姫路)だけだ。東京都だって府中と大井の二つしかない。

 わが中、高と思春期を過ごした姫路、城だけでなく、競馬の街としても名前を馳せて欲しい。

 そのあと、神戸新聞杯の予想イベントに出る[番外写真2]。

[番外写真2]神戸新聞杯予想イベントのひとコマ(右が筆者) 【写真:乗峯栄一】

 この姫路競馬場の改修、復活の喜びを語りたかったのだが、MCの女性が「乗峯さんはこの姫路出身だそうですね。そしていまはエロねた得意の競馬予想家として有名になられたんですね」などと紹介するので、「ははは、なーんだ、バレましたか。参ったなあ」と頭を掻き、実はぼくの初体験は、そこのスタンドの西に見える金山の藪の中なんです」などと言わねばならなくなった。

「初体験のときは、『そこにエタリオウ!』『でも、ここワグネリアンだもん』と、こういう会話がスタンダードでしょ?『そこにエポカドーロ』とは言わないでしょう」

 などと、予定していたことと全然違うことを言わねばならなくなった。

唐突な話だが、ぼくはアダルトビデオが好きだ

 ほんとに言いたかったのは、こんな話だったんだ。

 昔々、正直者だが運の悪い男がいて、働けど働けど貧乏を抜け出せない。

 男は飢え死に寸前となり、穂のとれたワラ(わらしべ)一本持ってフラフラと家を出る。そこにアブが飛んできたので、そのアブをワラの先に縛って歩いていると、そのワラを見て、ムズかっていた赤ん坊が泣き止む。喜んだ赤ん坊の母親は、ワラと引き替えに男にミカン3個を渡す。

 しばらく行くと娘が道端で苦しんでいて、水を欲しがっていたので、男がミカンを与えると、娘は元気を回復し、お礼に男にきれいな絹の布を渡す。

 男がその布を持ってしばらく行くと、サムライと元気のない馬に出会い、サムライは美しい布を見て「馬と交換してくれ」と言い、男はそれに応じる。

 男が夜通し馬の面倒を見てやると、馬は翌朝にはすっかり元気になる。馬を連れて歩き、大きな町にやってくると、町いちの長者がその馬を見て、たいそう気に入り「こんな素晴らしい馬を育てる者はさぞ立派な男に違いない、ぜひうちの娘の婿になってくれ」と言われ、男は美しい娘と長者の家督を手に入れ、一生裕福な生活を送る。

 これは有名なむかし話“わらしべ長者”のあらましで、この場合は[ワラ→ミカン→絹布→馬→長者の婿養子]という漸増数列のような話になっている。「そんなうまくいく話が世の中にある訳がない」というのが現代人の反応だが、最近どうも気になっていることがある。

 唐突な話だが、ぼくはアダルトビデオが好きだ。最近はネット、カード決済ですぐダウンロード出来るので、ほんとにいい世の中になった。

 40数年前のわが高校生の頃は大変だった。本一冊買うにも辛酸をなめた。姫路の山陽電車のガード下に、右半分が学習参考書、左半分がエロ本という、おかしな本屋があり、ぼくはまず右側で「世界史の傾向と対策」を持ち、奥をぐるっと左に回って、黒いシュミーズの女が片足を上げて微笑み“特集・レース1枚で快感倍増”と書かれた「月刊・夫婦生活」(この本を見たくて見たくて前から狙っていた)を「世界史」の下に隠してカウンターのおばさんの前に出す。

 隠すと言ったって、おばさんは一冊一冊レジを打たねばならない。「夫婦生活」を見たとき、おばさんは老眼鏡ずらして学生服姿のこっちを見上げる。「あ、あの、親に買って来いって言われて」と小声を出す。どこの親が高校生の息子に「月刊・夫婦生活を買ってきてくれ」と頼むか!

 しかしそのおばちゃんは優しかった。何も言わず両方一緒に袋に入れ「夫婦ってのは大変だからね」などとよく分からない独りごとを言う。それ以来「夫婦生活」は毎月の愛読書となり、お陰でぼくは高校2年にして既に夫婦生活の表も裏も大体把握してしまった。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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