川島永嗣の恩師が語るGKの神髄<第2回> 失点数に直結する「ポジショニングの妙」

次に起こる状況を予測し、臨機応変に対処する

原則は守りつつ状況に応じてクロスに備えるなど臨機応変な判断が必要だ 【写真:ロイター/アフロ】

 さらにGKは、ボールの位置、さらに敵と味方の人数と位置によってポジショニングを調整し、次のプレーを予測しながら局面に対応しなければならない。

 例えば、敵FWがゴールに向かってドリブルで迫ってきた時、敵の選手が他に何人、どこにいるかを目の端で把握しておくことは非常に重要だ。もし他に誰もいなければ、敵にとって選択肢はシュート以外にない。だが、もしもう1人の味方がニアポスト、あるいはファーポストに詰めていれば、シュート以外にそこへのパスという可能性も頭に入れて対応する必要が出てくる。これが2人になるともうお手上げだが、そういう時でも、ボールホルダーとの駆け引きの中で、味方のDFが戻ってくるための時間を稼ぐといった対応が、GKのプレー選択肢の中に入ってくる。

 敵がゴールに向かってではなく、ペナルティーエリアの幅よりも外をまっすぐ縦にえぐるように持ち込んで来た場合は、また対応の仕方が違ってくる。もし味方のDFがそれについていれば、FWは間違いなくゴールライン近くの深いところまでそのまま持ち込み、中央に折り返そうとするだろう。その時点で、直接シュートを打たれる可能性はほとんどなくなるわけだ。たとえシュートを打っても、ほとんど角度のないところから枠を捉える確率は非常に低い。

 したがって、そうなったらGKは、ニアポストを空けてでも2、3メートル前に出ることで、クロスに対応するポジションを取る必要がある。中央に詰めている敵にクロスが届く前に、それをカットできるよう備えるということだ。もしボールを持ったFWが急ブレーキをかけて切り返し、シュートを狙ったところで、その間にこちらがポジションを修正する時間は十分にある。

 逆に、同じ状況からFWがDFを抜き去り、外からゴールに迫ってきた時には、GKは決してニアポストを空けずにシュートに備えなければならない。この場合には、ボールホルダーとの距離を詰めに出ていくことも原則としては“禁じ手”だ。もしゴールを離れて出ていけば、FWがシュートを打たず後方にボールを戻した時に、ゴールががら空きになってしまうからだ。

 このように、「ボールと2本のゴールポストを結んだ線の中央に立つ」という大原則をすべての基本としつつ、GKは「相手に難しい選択肢を選ばせる」、「次に起こる状況を予測し、それに対応できる余地を残しておく」という準原則もそこに加味して、その時々に最適なポジションを取らなければならない。今ここに、身体能力や技術がまったく変わらない2人のGKがいると仮定しよう。1シーズンを通してどちらが多く失点するかを左右する最大の要因は、ポジショニングの良しあしだ。ポジショニングが的確ならば、相手のシュートがゴールを割る可能性を最小限に抑えることができる。「飛んできたシュートに対してどう対応するか」というのは、その次の段階ということになる。それについては次回で紹介したい。
<第3回は9月23日(日)に掲載予定>

※本連載は、2004年から05年にかけて『ワールドサッカーダイジェスト』誌に掲載された連載記事「GKアカデミア」の内容を元に再構成し、フルゴーニ氏への新たな追加取材を加えてアップデートしたものです。

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著者プロフィール

1948年2月3日生まれ。パルマで当時13歳だったジャンルイジ・ブッフォンを見出し、一流に育てた名コーチ。その後ヴェローナ、レッジーナ、チェゼーナ、カリアリ、パルマのGKコーチを歴任。日本代表GK川島永嗣とは01年のイタリア留学を受け容れて以来恩師とも呼ぶべき関係にあり、14年にはFC東京のGKテクニカルアドバイザーも務めるなど日本とも縁が深い。

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