Cygamesがユーベと鳥栖を支援する理由 「面白い事をやる、根本は変わらない」
サッカーにどっぷりと浸かった“こちら側”の人間
ソーシャルゲームを企画、開発、運営する株式会社Cygames。社長の渡邊はサッカーにどっぷりと浸かっている 【Getty Images】
「ピッチレベルに下りていって、マッシモ・フィッカデンティ監督と握手をして帰ります。試合の中身やサッカーの話は、そのときに少し」
もしサッカー狂がスポンサーとしてクラブの中枢にアクセスする権利を得たとすれば、それを行使してサッカーの虫である研究熱心な監督と、いつまでも話していたいはず。しかしその男はスポンサーとして関わったがゆえに、己と現場とのあいだに、あえて一線を引く。
「どうして毎試合、私のところに来ないんだ?」とフィッカデンティ監督は疑問を呈するが、男は変わらず、勝ち点3を得た試合に限って「会心の勝利だったね」とひと声掛け、時に「あそこは改善したほうがいい」と少々サッカー談義を吹っかけ、スタジアムから去っていくだけだ。
「マッシモは『毎試合来てくれれば勝つのに』と言うんですけれど、イタリアンジョークですね」
それ自体はジョークなのかもしれない。だがそもそも、“お偉いさん”ではなくサッカーが大好きな“こちら側の人間”だと認識しなければ、そうした軽口の俎上(そじょう)に載らない。フィッカデンティ監督と距離を縮められるほどに、この男――渡邊耕一は、サッカーにどっぷりと浸かっている。
いわゆる“ゲームオタク”ではない人であっても、『グラブル(グランブルーファンタジー)』や『Shadowverse』の名前くらいは聞いたことがあるだろう。渡邊はそれらのソーシャルゲームを企画、開発、運営する株式会社Cygamesの代表取締役社長である。大手ゲームメーカーの社長とサッカーは何の接点もなさそうなものだが、渡邊は自身をサガン鳥栖と強引に結びつけた。鳥栖がCygamesとのスポンサー契約を締結したのは2015年7月。この発表に至るまでには、社内でひと悶着あった。
「社長のワガママ」で鳥栖のスポンサーに
鳥栖をスポンサードするにあたっては、社内から猛反発を食らった、と渡邊は振り返った 【(C)J.LEAGUE】
取締役会の議決で自分以外の取締役が一斉に否定側に周る逆風は初めてだった。「何の意味があるんですか、それ?」と追及され、渡邊の背中を冷や汗が伝った。
平身低頭。もう、頼み込むしかなかった。
「『意味はございません。僕の地元ですし、スポンサードさせてください。どうか一度だけ、社長のワガママを許していただけないでしょうか』と、取締役に頭を下げました」
何回も額をこすりつけ、ようやく「しょうがないですね」という諦めの言葉を引き出した。
「今JリーグにIT企業の資金が流れているのは、ウチの影響も少しはあると思います。その意味で少しはサッカー界に貢献できたかな、と自負しています」
トーレスの獲得について、Cygamesは一切関わっていないのだという 【(C)J.LEAGUE】
「あくまでスポンサーというスタンスで接しているので、シーズン終了後の催しなどを除けば、日頃は選手とも話しません。スポンサーがいちいち『何であの選手を使わないんだ』とか『あの選手を獲得しろ』と言ったら、現場のチームとクラブが成り立ちません」
数々のコラボイベントをはじめとした企画、施策に関して積極的であることは確かだ。それでも、ベストアメニティスタジアムのリニューアルにしろ、サポーターを起用したCMにしろ、Cygamesが行っているのはあくまでも側面支援。いつまでスポンサードできるか分からないが、その間にクラブが体力を付けて独り立ちし、地域に愛される誇りとして定着してほしいと、渡邊は願っている。
トップチームはJ1残留争いに苦しむ状況だが、昨年「第32回日本クラブユースサッカー選手権(U−15)大会」を制した、サガン鳥栖U−15チームの話になると笑顔が広がった。
「ユースが海外遠征に行きだしたのは、かなり効いているみたいです。昨年、日本一になったU−15のメンバーが育つ2、3年後が楽しみです。だいたい強豪高校に引き抜かれるのですが(苦笑)。今回は(引き抜きが)少なかった」