Cygamesがユーベと鳥栖を支援する理由 「面白い事をやる、根本は変わらない」
ユーベのスポンサーとして期待する、歴史の積み重ね
「歴史を積み重ねていくことで、着実に世界展開をしていければ」と渡邊は話す 【Getty Images】
「鳥栖については地元への愛着、田舎を何とかしたいという思いから実現させましたが、ユベントスの場合は『やるべきでしょう』と、取締役会を満場一致で通りました。ただ、クラブの規模が問題だったのではないんです。というのも、スポンサード、企業広告は何かしらの『縁(えにし)』、必然性がないと成立しにくいと僕は思っています。
今回の場合はクラブカラーの白と黒が、弊社のコーポレートカラーと同じだったということが、一番の理由ですね。『俺たちは共にブラック&ホワイトだ!』と言ってプレゼンされたとたんに、アウェー用のユニホームが青になったのにはまいりましたが(笑)」
ユベントスのクラブカラーは黒と白、これはCygamesのコーポレートカラーとも一致する 【(C) Cygames, Inc.】
だが、これは欧州でも展開しているゲーム『Shadowverse』のダウンロード数増加など、直接的な利益や影響を考えての決定ではない。
「ユベントスのスポンサーになったからといって、急にゲームの知名度が上がるとは考えていません。ユニホームスポンサーは映像として残るじゃないですか。なので、歴史が積み重なっていくと期待していているんです。
(ジャンルイジ・)ブッフォンの退団に際して、背中を飾れたことは光栄ですし、(パウロ・)ディバラが10番を着けた時も僕らのロゴが着いていた――。『あの時はこうだったよね』という歴史を積み重ねていくことで、着実に世界展開をしていければなと。ある日突然浸透して、有名になりはしないと思うんです」
背中を強調するクリスティアーノ・ロナウドのゴールパフォーマンスによってCygamesのロゴが視聴者にさらされれば、自然と認知は進んでいく。他方では任天堂との業務提携を発表しているが、実態の成長にふさわしい知名度を得られるよう、長期的な戦略を仕掛けていく、その一環であるようだ。
ホーム開幕戦では“日本の夏”を演出したイベントを企画
エントランスのイメージ画像。提灯をディスプレイし、“日本の夏”を演出する 【(C) Cygames, Inc.】
クラブ側が希望した“日本の夏”を演出するべく、選手名、背番号、ユベントスのクラブロゴ、Cygamesのロゴが入った提灯をディスプレイ。こうして見ると、マーケティングを重視してシンプルなデザインへと舵を切ったユベントスの新しいロゴは、現代のIT企業のそれとも違和感がない。クラブが時代に対応し、変わろうとしたタイミングでの出会いに、渡邊の言うスポンサードの必然性がにじむ。
また、フォトブースでは一般来場者が「#Juventus」「#Cygames」とハッシュタグをつけてSNSに投稿すると、スピードくじを引くことができ、そこで当たりが出れば特典をプレゼントするという企画を実施する。
初戦でキエーボに3−2と辛勝したものの、ロナウドの移籍後初ゴールはお預け。期待が高まった状況で迎えるホームゲームをさらに盛り上げようと、あの手この手を尽くすさまは、ゲーム開発会社の面目躍如といったところだ。
「総合エンターテインメント企業なので、サッカーを通して面白いことをやろうという意味では、ゲームと根本では変わりません」
渡邊の思考を通すと、ゲームとサッカーが共通の土台に乗る。不思議な現象だ。
日本では8月22日の天皇杯4回戦に続き、11月10日にJ1で激突するヴィッセル神戸と鳥栖のビッグネーム対決で話題が持ちきりだが、同様の構図は欧州にもある。
欧州のメガクラブをスポンサードする日本企業が増えれば、サッカーの世界でもビジネスの世界でも、米国や中国に対抗する図式が出来上がる。壮大な戦国絵巻に一筆を加えるCygamesと渡邊の動きは、サッカー界だけでなく、世の中を広く巻き込みつつある。