井岡一翔の米国デビュー戦は正念場に ミステリアスな存在として注目を集める

杉浦大介

スケールダウンしている印象も

米国デビュー戦はいきなりの正念場に。井岡は難敵を破り、その強さを示せるか 【写真は共同】

 その一方で、『Superfly』は回を追うごとにスケールダウンしている印象を否定できないのも事実ではある。第2回に続いてザ・フォーラムで開催される第3回では、前戦でシーサケット・ソー・ルンビサイ(タイ)に惜敗したファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)がメインに登場することが決まっている。しかし、シーサケットとの再戦はかなわず、エストラーダは代わりに無名のフェリペ・オクタル(メキシコ)とインパクトの乏しい調整試合を行うことになった。

 セミではフィリピンの雄ドニー・ニエテスがWBO世界スーパーフライ級王座決定戦に登場して4階級制覇を狙うが、こちらも注目度は高いとは言えない。実績十分のエストラーダ、ニエテスも米西海岸では人気選手とは言えず、今回は集客、視聴率の苦戦は必至だろう。

『Superfly』の開始当初、ローフラーとHBOの頭には軽量級史に残る英雄であるゴンサレスの魅力を世に知らしめていきたいという目論見(もくろみ)があったに違いない。しかし、通称“ロマゴン”が2017年にシーサケットに2連敗を喫したことが大誤算。ゴンサレスとのドリームファイトの可能性が消えた井上もバンタム級に上がり、おかげで目玉となる選手が消えてしまった。

 前述通り、主催者側がシリーズを継続していきたいのは明白でも、一方で興行を第1回同様に盛り上げていくために、シーサケットとの対戦が興味深いイベントになる新星の登場を渇望しているのは想像に難くない。

新天地のオーディションであり、勝負の舞台

 そんな状況下で迎える第3回の『Superfly』で、最も大きな注目を集めるのは井岡ではないか。海外での試合経験がない井岡について米国で知られているのは、“元3階級制覇王者”“叔父も元2階級制覇”といった基本的な事柄くらい。29歳にして一時引退発表した事情もほとんど理解されておらず、情報、予備知識の乏しさゆえにミステリアスな存在になっている。最近では日本の軽量級ファイターたちへの評価は低くなく、9月8日は井岡のお手並みを拝見するのを楽しみにしているファンは多いはずだ。

 米国でのデビュー戦であてがわれるアローヨは簡単に勝てる選手ではない。16年春にはゴンサレスを相手に判定まで粘り、2月の『Superfly 2』では元WBC同級王者のカルロス・クアドラス(メキシコ)を下した実力派。井岡にとってスーパーフライ級に昇級直後に対戦するにはリスキーな選手であり、しかも勝手の分からない渡米初戦ということも考慮すれば、正直、今回ばかりはもう一段下の相手でも良かったのではないかとすら思える。シリーズの新たな売り物にしていきたいはずの日本の3階級制覇王者に、HBOと360プロモーションズがいきなりこんなカードを用意したことは少々驚きですらあった。

 実績に敬意が表されて井岡有利のオッズが出るだろうが、本番ではアローヨが勝ってしまっても誰も驚きはしない。ただ逆に言えば、好内容で勝てば井岡の株は一気に上がるということ。鮮烈なKOで魅せられればなお良し。その場合には一躍『Superfly』シリーズの目玉的な立場にまで急浮上し、エストラーダ、ゴンサレス、シーサケットとの絡みが注目されるようになるだろう。

 そういった意味で、『Superfly 3』は井岡にとって新天地でのオーディションであり、同時にいきなり勝負の舞台。日本のリングを飛び出した29歳は、本場のハードなマッチメークの中で輝けるか。9月8日、日本のファンだけでなく、本場の関係者、軽量級の強豪たち、そしてHBOの重役がリングサイドから大きな興味を持って井岡の戦いぶりを見守ることになりそうである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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