完全アウェーで勝利をつかんだ伊藤雅雪 瀬戸際でつかんだアメリカンドリーム

杉浦大介

試合前は「本当に怖かった」

WBO世界スーパーフェザー級王座戦は伊藤雅雪(中央)が判定で勝利。完全アウェーの中での初戴冠となった 【Getty Images】

「もう怖くてしょうがなかったです。試合前も、泣いてしまったりして、ホテルでも本当に怖かったんですけど、でも良かったです。自分自身、戦ってきて、チームが本当によくしてくれたんで。まだ信じられないです……」

 プロボクシングのWBO世界スーパーフェザー級王者になったばかりの伊藤雅雪(伴流)は、控え室でそこまで語って思わず泣き崩れた。

 現地時間7月28日、米国フロリダ州キシミーのシビックセンターで行われたWBO世界スーパーフェザー級王座決定戦で、伊藤はクリストファー・ディアス(プエルトリコ)に3−0(116−111、117−110、118−109)の判定勝ち。新王者誕生の瞬間はいつでも劇的だが、この日も例外ではなかった。

激しい打ち合いでも伊藤がすべてで上回る

序盤から堂々としたボクシングを見せた伊藤(右)。さまざまなパンチを当て、4回にはダウンも奪った 【Getty Images】

 プエルトリカンばかりの街での完全アウェーという舞台設定で行われたタイトル戦。伴流という決して大手とは言えないジムに属するベテランボクサーに、今後もそれほど多くのチャンスが訪れるわけではあるまい。「勝てば人生が変わる」と言って臨んだ一戦は、27歳の伊藤にとって、負ければ冷酷な現実を突きつけられる瀬戸際のファイトでもあったのだ。

 しかし――。

 開始ゴングが鳴ると、伊藤は初々しい言葉、態度からは信じられないほどの堂々としたボクシングを魅せてくれた。序盤からジャブ、右ストレートをクリーンヒットして主導権を握ると、4ラウンドには複数の右パンチを打ち込んでディアスは痛烈なダウン。後がない相手が中盤に盛り返してきても、ペースが落ちることはなかった。ディアスが得意とする左フックも致命打にはならず、ボディー打ち、アッパーまで含めた伊藤のさまざまなパンチが有効だった。

「1発もらったら2発返してやろう、2発もらったら3発返してやろうという気持ちでやっていました」

 本人も胸を張った通り、結局は接近戦、中間距離、ロングレンジというすべての距離を伊藤が制した印象が残る。激しい打ち合いでファンを沸かせる好ファイトではあっても、内容的には伊藤の完勝。敵地での勝利は殊勲の星ではあっても、最終的にはより実力上位な選手が順当に勝ち残ったと感じられたほどだった。

1/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント