ベルギーリーグ開幕節で感じた良い出会い 冨安の成長を助ける「経験豊富なCB」

中田徹

前評判が高いゲンクの中盤

週末にベルギーリーグが開幕。STVVの冨安健洋(左)がスタメンの座をつかんだ 【写真は共同】

 ベルギーリーグが現地時間7月27日に開幕した。今季のベルギーリーグはディフェンディングチャンピオンのクラブ・ブルージュ、熱血漢の勝負師ミッシェル・プロドームが監督に就いたスタンダールに加えて、ゲンクの前評判が高い。とりわけ中盤の陣容が豊富だ。

 アレハンドロ・ポズエロ、レアンドロ・トロサール、ルスラン・マリノフスキといったテクニック、アジリティー、ドリブルに優れたタレントを、パワーに秀でたサンデル・ベルゲが底から支える中盤は、クラブ・ブルージュに劣らぬ力を持つ。

 ゲンクは29日の開幕戦、敵地でロケレンに4−0で快勝した。73分にトロサールが、この夜のゴールラッシュを締めくくるゴールを決めると、呆れたロケレンのファンが自チームに対して皮肉交じりの拍手を送った。しかし、試合の終盤にゲンクの美しい攻撃が惜しいシュートで終わると、私の周囲に座っていた人たちが思わず本気の拍手を送っていた。

久保は先発出場もチャンスを生かせず

 スタンダール対ヘント(27日)は、3−2でホームのスタンダールが勝った。ヘントの久保裕也は、昨季終盤に引き続き、センターFW(CF)として先発出場したが、中盤からパスをもらえず前線で完全に孤立していた。

「僕らの方は全然攻撃の形もないですし、フィジカル的にも相手の方が強かった。(チームとしても個人としても)もっと改善しないといけない」(試合後の久保)

 1−1で迎えた53分、久保がこの日、唯一の決定機を迎えたが、シュートを枠に飛ばすことができずチャンスを逸した。久保は結局、1点ビハインドの69分にタイウォ・アウォニイと交代させられしまった。この瞬間、私の頭をよぎったのが、昨季、久保が何度か口にした「(イベス・)ファンデルハーゲ監督は、結果が出ないとすぐ代える」という言葉だった。試合後、そのことについて久保に尋ねると、「そうですね」と言って続けた。

「僕も、今日のワンチャンスを外して代えられたので、あれを決めていたら(交代させられず)出ていたでしょう。(監督の策は)分かりやすい。次の選手が結果を出したら、僕は出られなくなるけれど、彼が結果を出さなかったらまた、僕にチャンスが来る。やり続ければ、結果は出ると思います」

 1点差という僅差ながら、試合内容ではスタンダールの圧勝だった。ヘントも、久保個人も、どんどんパフォーマンスを上げていく必要がある。

冨安とコンビを組む31歳のベテラン、テイシェイラ

試合後、セルクル・ブルージュに移籍した植田直通(右)と談笑する姿も見られた 【写真は共同】

 28日はシント=トロイデンVV(STVV)対セルクル・ブルージュを見た。セルクル・ブルージュは昇格チームということもあり、STVVサポーターの願いは「勝利」の2文字だけ。0−0という結果に、私の近くに座っていた老婦人も「前4人のコミュニケーションが悪い!」とかなりご立腹だった。旦那さんが、STVVのGKを務めていたらしく、かなり目の肥えた方だった。婦人が「あの3番は、背後に対する守備が良かったわね」と、この日、センターバック(CB)としてフル出場した選手をほめていた。それが冨安健洋だ。

 18年1月にアビスパ福岡からSTVVに移籍した冨安は、昨季はシーズン終盤のアントワープ戦に1分間だけ途中出場したのみに終わったが、今季は開幕スタメンの座をつかみ取った。そのプレーは堂々たるもので、時折セルクル・ブルージュの俊足FWゲバン・トルマンとの間合いを空けすぎるシーンもあったが、地上戦・空中戦、ラインコントロール、ボールハンドリングの速さなどを見せていた。ただし、現地紙『ヘット・べラング・ファン・リンブルフ』の採点は厳しく、「ビルドアップが今ひとつだった」と5点だった。

 冨安とCBのコンビを組んだのが31歳のベテラン、ジョルジュ・テイシェイラだった。ポルトガル国籍のテイシェイラだが、プロとしてのキャリアは国外の方が長く、これまでキプロス、イスラエル、スイス、イタリア、イングランドでプレーしている。ベルギーでは2014−15シーズンから1年半、スタンダールでプレーした。当時から私は「相手に対して、自分の間合いに持っていくことのできる、うまくて強いDFだな」という印象を持っていた。セルクル・ブルージュ戦でのテイシェイラの守備も相変わらず堅く、力強く、冷静だった。「テイシェイラの隣でプレーすれば、冨安にとっても成長につながるな」と私は感じた。

 ロンドン五輪の後、日本の主力だった選手から「(鈴木)大輔が、(吉田)麻也くんの隣でプレーして、どんどん成長していくのを感じた」という言葉を聞いた。あの時と同じ現象が、ワールドカップ・ロシア大会で昌子源に起こった。若いCBにとって大事なのは、手強いCFと対峙(たいじ)することと、経験豊富なCBとコンビを組んで学ぶことなのだろう。

「冨安は良い相方に恵まれたな」。私はそう思ってスタジアムを後にした。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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