遠藤航が語るロシアW杯とベルギー移籍 「ポリバレントを生かすならボランチ」

原田大輔

浦和レッズからベルギー1部シントトロイデンへの移籍を決断した遠藤 【スポーツナビ】

 試合に飢えていたのだろう。ワールドカップ(W杯)ロシア大会でベルギーに敗れ、日本代表が帰国したのが7月5日。それから1週間も経たない7月11日、遠藤航は浦和レッズの一員として、天皇杯3回戦に槙野智章とともに先発出場した。

 W杯ではピッチを踏むことはできなかったが、4年後の自分に向けた何かを見つけた。それを証明するかのように、再開したJ1第16節(名古屋グランパス戦)では2得点をマーク。ゴールだけでなく、プレーの端々から気概であり、やる気がみなぎっていた。

 その後、7月21日にはベルギー1部のシントトロイデンに完全移籍することが発表された。それを決断させたのは「ずっと海外でプレーしたいと思っていた」と語る本人が、悔しさを味わった今回のW杯を経て、4年後のためにも必要だと思ったからこそなのだろう。(取材日:2018年7月14日)

1日でも早く試合をやりたいという思い

――W杯を終えて帰国したのが7月5日。それから1週間も経たない7月11日の天皇杯3回戦(対松本山雅)で先発出場したことには、さすがに驚きました。

 自分としては試合に飢えていたというか、モチベーションの高い状態で帰国しましたからね。その理由としては、チームとして悔しい負け方をしたこと、個人としては試合に出られなかったことに対する悔しさを持って帰ってきたところがあります。欧州でプレーしている選手たちはW杯が終わってオフモードだったと思いますけれど、僕の場合はシーズン途中。試合に出られなかった悔しさもあったので、早く試合をしたいという思いの方が強かったです。

 帰国して(オズワルド・)オリヴェイラ監督と話したときも「天皇杯で起用するぞ」という雰囲気だったので、自分としてもありがたかったです。それくらい1日でも早く試合をやりたいという思いが強かったんです。

――少し時計の針を巻き戻すと、遠藤選手は、監督交代前に行われた3月の欧州遠征でも日本代表に選ばれていました。ただ、マリ戦、ウクライナ戦ともに出場はなし。また監督交代後のガーナ戦も出場機会を得られませんでした。自分自身では、その状況をどう捉えていましたか?

 以前から(代表における)自分の立場は理解できていたので、試合に出られない悔しさはもちろんありましたけれど、だからといって焦ることはなかったですね。監督交代には驚きましたが、その時点でメンバーに入る、入らないはあるにせよ、これは選手たちでまとまるしか(W杯で勝ち進む)方法はないなと思っていました。

 確かに個人に目を向ければ、試合に出たいという悔しさはありました。でも、大事なのはチームとしていかにまとまって、チームとしてどういう形でW杯に向かっていくかだと思っていました。だから、試合に出られずとも、意外と心は落ち着いていたというか。最終メンバーに選ばれなかったら選ばれなかったで、また4年後を目指そうとも考えられていました。

――正直、焦りがあってもおかしくはない状況だったように思います。そうした中でもチームに目を向けられる姿勢は、どこからきているのでしょうか?

 それこそが日本人の良さというか、特徴のひとつだと思います。加えて、自分のことで言えば、育ってきた環境が大きかったかのもしれない。そういう意味では、これまでいい指導者に恵まれ、いいチームメートに囲まれて育ってきた環境があったからだと思います。中学生のときも、ユースのときもそう。プロになってからも、僕はチームのことを考えて行動する大切さを教わってきました。

 もしかしたら、何で自分にチャンスが与えられないんだと考える人もいるかもしれない。でも、今回の日本代表の選手の中には、そうした態度を出すような人は1人もいませんでした。みんながみんな悔しさを持ちつつ、試合に飢えながら、日々の練習から取り組んでいて、試合に出場すれば100パーセントの力を出すし、試合に出られなければしっかりとサポートしていました。そうした雰囲気が今回のチームにはあったので、自分も一体感を感じました。

いい意味で“調子に乗る”ことも必要

W杯ではピッチに立つことはかなわず、その悔しさを胸に前を向く 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――今、一体感という言葉が出ましたが、その雰囲気は最初からあったのでしょうか?

 チームとしてまとまりが強くなったのは、やっぱり初戦でコロンビアに勝利してからだと思います。実際、グッと高まるのを感じましたから。五輪もそうですが、W杯という大きな大会では、何よりも勝つことがチームの結束力を高める材料になるということをあらためて学びました。

 あとは、日本人選手は初戦に勝った後も「まだグループステージ突破が決まったわけではないので」とか「次の試合もがんばります」とか答えがちです。自分もそうした謙虚な姿勢こそが最善だと思っていましたが、欧州でプレーしている選手たちからは違う意見も聞きました。その謙虚な姿勢は日本人の美徳ではあるけれど、いい意味で調子に乗ることも必要だという意見もあったんです。そうすることで、「次もいける」というモチベーションが高まったり、チームの一体感を最高潮に高めることができると。その考えを聞いてさらに学んだところもありましたし、そうした考えがあったから第2戦のセネガル戦も(2度リードされる)難しい展開の中、引き分けに持ち込むことができたのかなと思います。

――W杯でグループステージを突破し、ベスト16進出という結果を残せた要因は?

 僕ら選手たちはぶれなかったんですよね。正直、初戦でコロンビアに勝利するまでは批判の嵐で、「どうせ3敗だろう」「3戦全敗だ」とたたかれていましたし、記者の方たちもそう思っていたからか、どこか質問もネガティブな印象が強かった。選手たちもそうした雰囲気は感じていたけれど、僕らは毎試合、毎試合、自分たちがどうすれば良くなるのかを考えていました。それは負けている中でもやり続けたし、勝ってからもやり続けていました。

 ぶれずに続けてきたこと、みんなで話し合いながら積み上げてきたことが、コロンビア戦の結果となって表れたんだと思います。コロンビア戦に勝ったことで、メディアの方々からは「何が変わったんですか?」と聞かれました。でも、僕らは何も変えずにやるべきことをやってきた。積み重ねてきたからこそ結果が出たんです。もちろん、これは結果論でしかないかもしれないけれど、それだけ積み重ねて、いい準備をしてきたからこそ、コロンビアに勝てたと思いますし、グループステージを突破できたと、僕は思います。

――その一方でラウンド16では、ベルギーに2−3で敗れてベスト8進出はなりませんでした。試合に出場することはできませんでしたが、ベンチから見ていて何が足りなかったと感じていますか?

 まずベルギー戦に関して言えば、試合に出ている(日本の)選手たちのことをすごいと思って見ていました。結果的に(決勝点を奪われた)最後のカウンターで世界のすごさを見せつけられましたけれど、あの失点だけにフォーカスすればいいということではないと思います。それまでの過程で、1つ1つのプレーの質、マイボールにする回数、特に後半はちょっとしたところでズレが生じてきている気がしていました。僕らが2点を先行した中で、押し込まれる展開になって、ちょっとしたところでボールが収まらなくなったり。そういう少しのところで体力を消耗して、最終的にあのカウンターを受けることにつながってしまったのかなと。

――そういった壁であり、差を、日本が越えていくには?

 正直なところ、1人1人が実力をつけていくしかないと今は思っています。ベルギー代表に選ばれた選手たちは、常にヨーロッパのトップリーグで拮抗(きっこう)した試合を経験している。日本人も欧州でプレーする選手は増えているとはいえ、まだまだです。今回のW杯を目の当たりにして、海外組が早く欧州でプレーする機会を作れと言う理由が少し分かった気もします。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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