【戸田和幸連載(5)】サッカーは社会の縮図 選手に目的意識を持たせるアプローチとは
自分に向けられていない言葉は「他人事」
その背景には専門の知識を持ったコーチがいないという事もありますが、サッカーのフィジカルはサッカーをする事でしか身に付かないという考えを個人的に持っているので、常にボールを扱いながら対人プレーを行い、局面における判断も要求しながら目的をもって走る事をテーマにしたトレーニングで選手達に指導してきました。
20年を超える人生の中で身体に沁み込んできた彼らのサッカー全てを変える事は不可能ですが、例えば「走りたい選手」には何処から何処に、いつ、どんなスピードで走るのかを伝えてきました。
ボールを蹴るのが好きで得意な選手には、どこでボールを受け、何処から見て判断し、どういったボールを蹴るとチームに貢献できるかを伝えてきました。
ドリブルが得意だと思っている選手にも、何時何処で何のためにドリブルをするのかという判断と、他にどのような選択肢を持っているとより効果的にドリブルが使えるようになるのかを伝えてきました。
そしてこれも当たり前の話になりますが、個々人に与えられるタスクは全てCチームが持つプレーモデルに沿った中で考えられたもので、それらを落とし込む為にトレーニングを行ってきました。
チーム作りを行う上ではグラウンド上で行うトレーニングやコーチングだけでなく、これも当たり前の話ですが、試合映像を用いたミーティングも行ってきました。
ここで行う事はチームとして目指すものに対して目からも情報を入れ、そこに言葉を添える事でより理解を深めてもらう事が目的となります。面白いなと思ったのは、その映像に出てくる選手ではないその他にとっては意外と「他人事」となってしまうという事でした。
これはピッチ上に於いても同じで、あるポジションの選手にコーチングを行った直後に同じポジションの別の選手が指摘された事と同じ事をする。同じポジションであっても自分に向けられていない言葉はあくまでも「他人事」という選手が何人もいました。
チームミーティングで伝えた事を実際に具体的なシチュエーションを作り、ポジショニングと動き方、選択肢の持ちかたと選び方のトレーニングを行っても、次の日には全て忘れてしまう選手も何人もいました。
自分が考案し彼らに提示してきたサッカーは確かに簡単なものではないので最初から上手く出来ない事は想定内、全く問題ないのですが、そもそも何故そこにいるのか、何故サッカーをしているのかの目的意識が希薄な選手もたくさんいました。
これが学生スポーツの持つ一つの特徴、特に上から3つ目のチームで競技者と愛好者の狭間にいると言って間違いのないCチームだからこその難しさなのかもしれないと感じました。
学業が本分である彼らに対し指導者としてどんな関わり方をしていくべきか、サッカーだけでなくサッカーを通じてどんな事を伝えるべきか、今でもよく考えます。
自分自身と向き合い、全力でサッカーに取り組んでほしい
サッカーを通じて自分自身と向き合い、Cチームの勝利の為、そして一人の男として社会に出ていく準備の為に全力でサッカーに取り組んでほしい 【宇都宮徹壱】
学業が本分だからこそ、僕は彼らに対してこういった言葉を投げかけてきました。
「学生の本文が勉学として、何故わざわざ貴重な時間を使ってサッカーをするのか、その意味をよく考えなさい」
「Iリーグの1部に所属し、黄色のジャージを身に纏い闘う責任を感じろ」
「Cチームとして結果を残す為に学生として出来る最大限の努力を」
誰かにやらされるサッカーではなく、それぞれがきちんとした目的意識を持ってグラウンドに集い、自分に出来る貢献の形を探しながら勝つチームを作っていく。
サッカーは社会の縮図、チームとしてやるべき事を全体で共有しながら、個々人が自分に課せられた役割に基づき主体的に判断し実践していく。
こういった事が出来るようになれば、いざ社会に出た時に十分通用する人間になれるはずです。
今日まで僕はそう考えてサッカーに取り組んできましたし、彼等も必ずそうなってくれると信じて日々グラウンドに向かっています。
彼ら自身の在り方やCチームでプレーする意味を問う為に日々厳しい言葉も投げかけますが、サッカーを通じて自分自身と向き合い、Cチームの勝利の為、そして一人の男として社会に出ていく準備の為に全力でサッカーに取り組んでほしいと願っています。
次回はIリーグ開幕以降の自分とチームについてと、Cチームならではの難しさについて書いてみたいと思います。