連載:指導者として

【戸田和幸連載(2)】最適なプレーモデルを探し出すために 2人称からの脱却、急ぐことなく基本から

戸田和幸

慶應にて指導を始めて3カ月が経過

慶應義塾大学ソッカー部で指導を始めてから、既に3カ月が経過 【宇都宮徹壱】

 戸田和幸です、今回が2回目のコラムとなりました。

 前回は慶應義塾大学ソッカー部で指導を始めることになるまでの経緯と、「言葉」の重要性について書かせてもらいました。
 その最後に、初めて彼らのサッカーを見た時に感じたものは「サッカーの解釈」「ストラクチャー」「主体性」でしたと綴り、2回目を迎えています。早いもので慶應にて指導を始めてから、既に3カ月が経過しました。

 Aチームが属している関東2部リーグとは別に、それ以外の選手達の為の公式戦、「インディペンデンスリーグ(Iリーグ)」というものがあり。
 慶應はBとCの2チームがIリーグ1部、Dチームが2部に属しています。

 僕が受け持っているCチーム(慶應大U−22B)はここまで3節を消化し1勝2敗、2節では流通経済大に2−1で勝利するという大きな結果を残すことが出来ましたが、3節は産業能率大に2−4と敗戦。
 一つの勝利が生み出す正と負、両方の要素がいかにチームに変化をもたらすのかという事がよく見えた、非常に興味深い1週間となりました。

初めての感想は「よく蹴って走るなあ」

 試合についての話も早くしたいのですが、物事には順序が必要なので、まずは指導をし始めた時から振り返ってみたいと思います。

「サッカーの解釈」、という言い方がどのくらいポピュラーなのかはさておき。
 解釈――要はこのスポーツをどう理解するかによって、選手個々人とチームがどの方向に進んでいくかが決まっていくと考えていますが、僕が見た彼らのサッカーは、僕が考えるサッカーとは大きく違いました。

 初めて慶應ソッカー部Cチームの試合映像を見た時の感想は。
「よく蹴って走るなあ」というものでした。
 そこにはチームとして持つべきプレーモデル、今後、このコラムで頻繁に使う事になるこの「プレーモデル」という言葉は、「全選手が頭の中で共有していなければならない具体的な脳内映像、ヴィジョン」のことを指しますが、そのプレーモデルが見えず、そうなると当然攻守において具体的なアクションを起こしていく為の「ストラクチャー」(骨組み)、そして各選手のポジショニングや判断の優先順位なども感じられず。

 ボールを奪い相手ゴールを目指すことに対するひたむきさが強く印象に残る一方、前に前にということのみに意識が向かい、そこには相手がいないようにも見え。
 また、局面において自分が何をすべきかを自ら考え、味方に対して情報を発信するといった、アクションを起こす「主体性」も弱く見えました。

 そしてサッカーの具体的なところで言うと、2人称のプレーが非常に多かった。
 ボールを保持している選手に対して「へそ」を向けて寄っていってしまう選手が非常に多く、そうなると当然ながら3人目の飛び出す動きなどの関わりや、1タッチプレーも生まれない。
 非常にせわしなく、ピッチの至る所で1対1や2対2が行われているようなサッカーでした。

 彼らにとってのサッカーは「ひたむきにひたすらに全力でゴールを目指して闘うもの」だと感じました。対して僕が考えるサッカーとは、「チームとして持つべきスタイルを見つけ構築し、相手に対し攻守に渡って具体的な集団行動を取りながら個人が主体的に振る舞う」もの。

 この両者の間にある隔たりを埋めていきながら、自分が持っている知識と方法論を選手達が実践出来る形で渡していき、彼らだからこそ出来るサッカーを創っていくこと。
 そしてそこには発展性があり、選手個々人が成長出来るものであること。
 彼らのサッカーを見た時にまず感じ考えたことは、これらのことでした。

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著者プロフィール

桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。プロフェッショナルのカテゴリーで監督になる目標に向けて、18年からは慶應義塾大学ソッカー部のコーチに就任。また「解説者」というサッカーを「言語化」する仕事について、5月31日に洋泉社より初の著書『解説者の流儀』を出版

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