連載:指導者として

【戸田和幸連載(5)】サッカーは社会の縮図 選手に目的意識を持たせるアプローチとは

戸田和幸

「ボールを保持している状態」から考える

「ボールを保持している状態」から考え、理想のチーム作りを目指しています 【宇都宮徹壱】

 戸田です、これが5回目のコラムとなります。
 前回は、サッカーにおいてCチームとしてプレシーズンを如何に始めたのかという事からポジショニングについて、最後に選手達との向き合い方に入ったところで終わりました。今回はより選手達との向き合い方について書いてみようと思います。

 Cチームがインディペンデンスリーグ(Iリーグ)で結果を残す為のサッカーとはどういうものか。
 プレシーズンで様々な大学と練習試合させてもらいながら、日々のトレーニングも含め模索してきました。
 がっぷりよつでぶつかってしまっては露呈する事になる体力・技術的な差を如何にして埋めながら勝つチームを作る事が出来るか、プレシーズンで試合をした他校との比較の中で自分たちの立ち位置を把握し、少しずつ具体的な輪郭を描いていきました。

 前回のコラムでプレシーズンを4−4−2で始めたと書きました。理由は大学サッカーでは一番ポピュラーなオーガナイズだという事と、一番オーソドックスものなのでサッカーの基本を学ぶのに適していると考えたからです。
 その後、プレシーズンを進めていくうちにCチーム独自の攻守におけるオーガナイズを発見していく事になりますが、まずはサッカーと判断のベースを作らなくてはならないという事で4−4−2からスタートさせました。

 対戦相手のプレーモデルやオーガナイズ関係なしに、ひたむきにハードワークする事に慣れていた選手達の頭の中を変えていきながら、自分が考えるCチームとしての新しいサッカーを作り上げる為に、まずは止めて蹴るのレベルアップと、それに並行して自分たちが目指すプレーモデルの理解と具体的なポジショニングについてトレーニングの中で伝えていく。

 そして僕はそれを「ボールを保持していない状態」から考えるのではなく、あくまでもサッカーはボールスポーツなので「ボールを保持している状態」から目指す事にしました。

勝負だけでなく、プレーする事の楽しさを

 そもそも論ではありますが、ボールを保持していない状態から考えるサッカーとはどんなものか。
 コンパクトな陣形を保ちハイプレス・ブロック、もしくはマンマークも駆使した変則的な守備から奪ったボールを素早いカウンターでゴールまで結び付ける、こんなイメージになると思います。

 ボールを保持している時間も長くはなく、また守備からの攻撃という考え方となるので、まずは「ボールを奪う」為のオーガナイズが重要となります。
 また攻撃においても全体で押し込んでコンビネーションプレーでというよりは、手短にシュートまで持ち込み「カウンターを打つ為のオーガナイズ」を崩さない程度の攻撃を目指す。
 Jリーグでは城福浩監督のサンフレッチェ広島、長谷川健太監督のFC東京、世界的なチームではディエゴ・シメオネのアトレティコ・マドリードや今回のワールドカップでいうとドイツを破ったメキシコや優勝したフランスといったチームがこれに該当すると考えます。

 それとは逆に、ボールを保持している状態から考えるサッカーとはゴールキーパーからトップまでの全員が何時如何なる状況においても能動的に動き続け、ボール支配率を高めた中でゲームをコントロールしながらゴールを目指す、そして守備はあくまでも攻撃の時間を長くするために付随するものとして考え、素早いトランジションで回収を図り敵陣での攻撃の時間を長くする、こんなイメージでしょうか。

 ペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティ、マウリツィオ・サッリのナポリ、ワールドカップで素晴らしい活躍を見せた乾が今季からプレーする事になったキケ・セティエンのベティスもここに該当します。
 また国内では北海道コンサドーレ札幌、川崎フロンターレ、徳島ヴォルティス、そして先日監督解任となりましたが、FC今治などもこれに該当するチームだと思います。

 何故僕がボールを持つところからチームを作る事を決めたのかというと、サッカーというスポーツはいかなるスタイルを採用しようともボールを持つ時間が存在するスポーツ、であればその質は求めるべきだという事。
 他校と比較した時の選手達の身体的な能力比で考えると、やはりボールを持つ時間は長くしたいという事。
 彼らの持つ特性を考えると、取り組み方次第では十分それが実現可能だという事。
 そして勝負という側面だけでなく、選手達にプレーする事の楽しさを教えたいという事。

 こういった事が理由として挙がります。

 またボールに触れる事が楽しくて始めたサッカーを、とにかくハードワークという言葉で片付けたり、せっかく奪ったボールを具体的なアイデアもなく敵陣に蹴って走るというものではなく、思考をベースにしたサッカー、オーガナイズ・ポジション・判断の全てを駆使した「楽しいサッカー」にしてあげたい。

 そういった気持ちもありました。

1/2ページ

著者プロフィール

桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。プロフェッショナルのカテゴリーで監督になる目標に向けて、18年からは慶應義塾大学ソッカー部のコーチに就任。また「解説者」というサッカーを「言語化」する仕事について、5月31日に洋泉社より初の著書『解説者の流儀』を出版

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント