連載:指導者として

【戸田和幸連載(3)】手探りで進めた慶大でのプレシーズン 「論理的思考」に強く働きかける

戸田和幸

書籍出版とCL決勝と

開幕前、僕は手探りでプレシーズンを進めていく事になりました 【宇都宮徹壱】

 戸田和幸です。3週に一度のペースでコラムを配信することになっており、今回が3回目となります。

 前回からの3週間、何があったか振り返ると、まずは書籍(『解説者の流儀』)の出版、それからキエフにて行われたチャンピオンズリーグ(CL)決勝の現地解説、この二つがトピックとなります。

 書籍については有難いことに、発売して5日で重版が決まりました。今現在、なかなか手に入らない状況のようですが、急ピッチで刷っているとのこと、もうしばらくお待ちいただければと思います。

 ちょうどキエフに行く前の週末に、僕が指導している慶應義塾大学ソッカー部のCチームは一つの分岐点を迎えました。
 選手達自身にサッカーに対する向き合い方を見つめ直してもらう、また自分自身の指導も見つめ直す機会になりましたが、あと2回後辺りにその話は紹介したいと思います。

 前回のコラムでは、「プレーモデル」についての話をしました。
 プレーモデルとは「全ての選手が頭の中で共有しなくてはならない具体的な脳内映像、ビジョン」を意味します。

 Cチームには他の大学と比べて、突出した「個」を持つ選手はいません。
 ですから、如何にして思考の部分にフォーカスし、相手に対し具体的で効果的な戦術行動を行うことが出来るかで勝敗は決まる――彼らを指導し始めるより前に、既に自分の中でそう結論付けました。

「インディペンデンスリーグ」の開幕は4月の末、立ち上げから10週間の時間がありました。
 開幕から逆算してどのように進めていくか、実際にチームを指揮するのは初めてとなる僕はまさに手探りでプレシーズンを進めていく事になりました。

 プロの場合は約6週間で開幕を迎えます。そこと比べると4週長く準備が出来る。
 選手達から昨シーズンについての話も聞いていたので(開幕2連敗で9失点)、常に悲観的な視点を持ちつつ、一つ一つゆっくり丁寧に積み上げていくことを心掛けました。

「認知」する力はとても重要な能力

 サッカーのトレーニングは、ウォーミングアップ・トレーニング(以降TR)1・TR2・ゲームという流れで作られることが一般的で、日本サッカー協会が推し進めている指導者ライセンス制度においても、この流れが推奨されています。

 その流れを踏まえた中で、僕がとにかく意識をしたことは「全てのトレーニングが試合に繋がること」「自分たちの持つべきプレーモデルの構築にむかっていくこと」でした。

 こんなことはわざわざ書く必要もないくらい当たり前のことだと思いますが、実はこれがなかなか難しいということもまた事実です。

 ウォーミングアップでは頭と体を起こし、TR1にスムーズに入っていけるよう工夫をしますが、僕の場合は特に「認知」の部分に働きかけることが出来るメニューを様々用意して、目と頭と口の全てを働かせないと行うことが出来ないものを毎週行ってきています。

 この「認知」する力はサッカーに於いてとても重要な能力だと考えています。昨年スペインに研修に行った時、プジョルやシャビ、イニエスタを育てたと言われているFCバルセロナのメソッド部門で長く働くジョアン・ビラ氏も、認知する力の重要性を力強く語っていました。

 ピッチ上のどこに自分がいて、周りには誰がいるのか。そして何が起こっているのか。

 ピッチ上にて瞬間的に自分の置かれた状況を把握し理解する力、一度に多くの情報を取り込みながらより効果的なものを選ぶ力はサッカーに於いて殊更に重要です。

 我々Cチームが目指す「思考」する力を生かしたサッカーを作り上げていく為には、上に記した「認知」する力を高めつつ、プレーモデルを正しく理解させて細かなディテールまで作り上げていくことが必要となります。

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著者プロフィール

桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。プロフェッショナルのカテゴリーで監督になる目標に向けて、18年からは慶應義塾大学ソッカー部のコーチに就任。また「解説者」というサッカーを「言語化」する仕事について、5月31日に洋泉社より初の著書『解説者の流儀』を出版

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