兼任監督であり、日本人監督であること 森保一監督の就任会見で感じた期待と懸念

宇都宮徹壱

「元Jリーガー」監督の就任で感じる感慨

就任会見に臨んだ森保新監督(中央)。日本人の「元Jリーガー」が代表監督になるのは初めてのこと 【写真:つのだよしお/アフロ】

 日本代表新監督の就任会見のメールが、各メディアに一斉配信されたのは、7月26日の15時31分のこと。その日は日本サッカー協会(JFA)の理事会を受けて、16時30分にJFAハウスにて記者会見が行われることになっていた。この日の理事会で、森保一五輪代表監督のA代表監督就任(兼任)が決定され、その日のうちにメディアに向けて発表、後日あらためて新監督の会見が行われる──。関係者の多くは(そしてもちろん私も)そのように考えていた。それが会見予定の1時間前に、会場が都内のホテルに変更され、しかもいきなりの「就任会見」。だからこそ、同業者の誰もが面食らった。

 会場となったのは、都内の某ホテル。ここでは5月31日のワールドカップ(W杯)ロシア大会のメンバー発表をはじめ、これまでにも数々の重要な会見が行われている。言うなればJFAは「お得意様」であるわけだが、そんなに急にホテルの広間を押さえられるのだろうか。恐らく事前に予約していたのだろうが、それ以上に気になったのが、タイミング。実は翌27日には、ヴァイッド・ハリルホジッチ元監督のJFAに対する訴訟の第1回公判が行われることになっていた。まさかJFAが、それを意識していたとは思わない。それでも断言できるのは、新監督就任のニュースにより、裁判の話題がかき消されるのは必至ということである。

 会見はまず18時より、田嶋幸三会長、そして関塚隆技術委員長が登壇し、新監督選出の経緯と理由について説明。それから10分ほどのブレークを経て、18時35分より森保新監督が登場し、今度は3者による会見と質疑応答が1時間にわたって行われた。49歳の新しい指揮官は、2つの代表監督を兼任することについて「困難なことだと思います」としながらも、「日本代表を支えてくださる多くの方々のお力をお借りしながらチームを作っていけば、その不可能が可能に変わり、2つのチームを同時に見ていくことが大きな成果につながると思っています」と謙虚に語っている。

 今さら新鮮な驚きのない、新監督の人事。それでも感慨がないわけではない。まず、A代表と五輪代表監督の兼任は、フィリップ・トルシエ氏以来。だが、それ以上に注目すべきは、「日本人の元Jリーガーが初めて日本代表監督に就任した」という事実であろう。西野朗氏も岡田武史氏も、現役時代はJリーガーとしてプレーしていない。Jリーグ開幕から四半世紀を経て、そうした人材が選出されたことには、やはり深い感慨を覚えてしまう。

「ジャパンズ・ウェイ」とは何か?

田嶋会長はセネガル戦の直後、「こういう戦い方をすれば、日本の体格でも世界と渡り合える」と語っていた 【写真:ロイター/アフロ】

 五輪代表との「兼任であること」。そして、急場しのぎではない「日本人監督であること」。森保新監督の就任を語る上で、まず押さえておくべきことはこの2点である。兼任をこなすためのスタッフィング、あるいは「世代交代」についての具体的なアイデアといったものは、今回の会見で語られることはなかった(就任が決まったばかりなのだから、当然といえば当然だが)。そこで本稿では、「兼任であること」と「日本人監督であること」という2つのポイントに絞って、今回の監督人事を考えてみることにしたい。

 まずは後者から。就任会見に先立ち、田嶋会長は「ジャパンズ・ウェイ」という言葉を盛んに繰り返してきた。正直、私には聞き慣れない言葉である。ネットで検索してみると、2−2で引き分けたW杯グループリーグ第2戦のセネガル戦(6月24日)の直後、田嶋会長は「こういう戦い方をすれば、日本の体格でも世界と渡り合える」と語っていたのが、すなわち「ジャパンズ・ウェイ」であった。具体的には、どういうことか? この日の田嶋会長の会見から、その要点を箇条書きにまとめてみよう。

・日本は90年代以降、「世界に追いつけ、追い越せ」という気持ちで代表の活動に取り組んできた。しかし、単にリスペクトするだけでは世界に追いつけない。もちろん日本が足りていない部分を認識しつつも、それ以上に世界にも通用する「日本の良さ」を追求して、独自のスタイルを確立する。それが「ジャパンズ・ウェイ」である。

・田嶋会長が挙げた「日本の良さ」とは、技術力、俊敏性、組織力、勤勉性、粘り強さ、フェアであること。これらは、日本代表監督の経験があるイビチャ・オシム氏やアルベルト・ザッケローニ氏も評価していた。「ジャパンズ・ウェイ」の考え方は06年、小野剛氏が技術委員長時代に提唱され、そのつど変化しながら今に至っている。

・「日本人の良さ」というのは育成年代で取り組まなければならない課題。それはこれまでもやってきたことであり、これからも続けなければならない。「代表チーム・ユース育成・指導者養成」の三位一体こそが重要で、代表チームだけでは日本は強くなれない。

・「ジャパンズ・ウェイ」は、あるシステムや戦術を決めるものではなく、「日本の良さ」を生かしていくことで、その強みが試合の中で発揮されることである。そして「ジャパンズ・ウェイ」は、属人的であってはならない。監督が変わるたびに、日本が目指すサッカーにブレが生じてしまうからである。

・そのためには、日本のサッカーのシステムを熟知した人物こそが代表監督にふさわしい。Jリーグが開幕して25年が経過し、日本代表もW杯に6大会出場した。そうした環境の中で、指導者としてのキャリアを積み重ねていた人物。これについては西野前技術委員長、そして今回のW杯の分析を踏まえた関塚技術委員長も同意見であった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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