兼任監督であり、日本人監督であること 森保一監督の就任会見で感じた期待と懸念

宇都宮徹壱

兼任監督のメリットと不安要素

トルシエ氏以来の兼任監督となった森保新監督。五輪代表とA代表の兼任は妙案に思う 【写真:アフロ】

 ここまで読み進めて、大きくうなずく人とツッコミを入れたくなる人、それぞれの割合が気になるところだ。しかしその前に、「兼任であること」についても言及しておきたい。個人的には、五輪代表とA代表の兼任は妙案だと思っている。トルシエ氏の兼任が可能だったのは、W杯の予選が免除されていたことが大きかった。今回は五輪の予選が免除されている。メダル獲得を意識した強化試合を続けながら、4年後に向けた世代交代を進めていく。そのためには、戦術やチーム方針が統一されていたほうが効率は良い。それに2020年の「23歳以下+オーバーエイジ」は、22年のA代表と大きく変わることはないだろう。

 一方で欧州では、この9月よりUEFA(欧州サッカー連盟)ネーションズリーグが開幕する。UEFA所属の55カ国のナショナルチームが、実力に応じてグルーピングされ、国際Aマッチデーでリーグ戦を戦うというもので、欧州選手権(ユーロ)やW杯の予選も兼ねる。こうなると日本は、欧州勢とのマッチメークが困難となるのは必定。となれば、五輪開催国としてのアドバンテージを生かしながら強化試合を行い、さらに20年の本番を経て2年後のカタールを目指すというシナリオは悪くない。森保監督が五輪代表とA代表を兼任するならば、状況に応じた強化プランを組むことも十分可能だろう。

 ここで再び、「日本人監督であること」というテーマに立ち戻りたい。私自身は、是が非でも「外国人監督がいい」と考えているわけではない。それでも、世界に目を向ければさまざまな選択肢がある中で「森保一」を候補の筆頭に挙げるのなら、「ジャパンズ・ウェイ」という理由がどうにも後づけめいたものに感じられてならないのである。そもそも「ジャパンズ・ウェイ」という思想は、本当に12年間の長きにわたり存在していたのであろうか? 確かに、06年に就任したオシム監督は「日本サッカーの日本化」というテーゼを掲げていた。しかしJFAが当時から「ジャパンズ・ウェイ」を提唱していたという記憶はない。

 この語源を再び探っていくと、ラグビー日本代表のヘッドコーチだったエディー・ジョーンズ氏が提唱した「ジャパン・ウェイ」に行き当たる。その影響を受けたのが、なでしこジャパンを率いていた佐々木則夫前監督で、11年の女子W杯での優勝は「ジャパンズ・ウェイのひとつの成果だった」と田嶋会長も指摘している(だが、なでしこの「その後」ついての言及はなかった)。確かに「ジャパンズ・ウェイ」は、魅力的なスローガンだ。とはいえ、もし4年の間にその限界が見えた場合、田嶋会長はどのような決断を下すのだろう。個人的には森保新監督を応援したいだけに、その点が非常に気になるところである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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