井上尚弥、WBSSで現役最強の証明へ 大本命で迎える最強決定戦トーナメント
クルーザー級決勝は“今年度最高級の一戦”に
クルーザー級ではオレクサンドル・ウシク(右)とムラト・ガシエフが決勝へと進み、今年度最注目の一戦が待っている 【写真:ロイター/アフロ】
当初は「Too good to be true(話がうますぎる)」とも感じられた極上イベントだけに、昨年3月にニューヨークで第1回開催が発表された際には、まだ懐疑的な声も多かった。もともとケガのリスクが大きいボクシングはトーナメント向きではなく、例えば決勝進出を果たした選手が長期離脱してしまうような事態は常に考えられる。米国の有力プロモーターはこの大会に魅力を見出しておらず、主催者側はあえて英国勢中心の階級での開催を選んできた感がある。
おかげで第1回は、結局は米国内の主要なテレビ局が中継せず、ボクシングの本場・米国での存在感はもう一つ。スーパーミドル級ではやはり故障者が出たために、ジョージ・グローブスとカラム・スミス(ともにイギリス)の間で行われるはずの決勝戦はまだ日程すら決まっていない。こんなプロセスは、ボクシングにおける勝ち抜き戦の難しさをあらためて印象付けたとも言える。
ただ、すべての後で、WBSSにはそれでも大きな魅力があることは誰にも否定できないはずだ。最近は世界王者認定団体が多くの王座(スーパー王座、正規王者、暫定王者など)を乱発し、WBA、WBCといったアルファベットタイトルの価値が下がる一方だ。強さの序列がすっかり分かり難くなった中で、シンプルなコンセプトのWBSSには昔懐かしい“最強決定戦”の趣が確実にあるのだ。
シーズン1のスーパーミドル級は確かに運営が容易ではなかったが、一方でハイレベルの攻防戦が続いたクルーザー級の激闘はファンを喜ばせた。
開幕の時点でWBO王者オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)、IBF王者ムラト・ガシエフ(ロシア)、WBC王者マイリス・ブリエディス(ラトビア)、WBA暫定王者ユニエル・ドルティコス(キューバ)という4団体の王者が出そろい、トーナメント中は好内容のファイトが頻発。21日に行われる決勝戦ではWBC&WBO王者ウシク対WBA&IBF王者ガシエフという無敗の4団体統一戦が実現し、“今年度最高級の一戦”と評判を集めるに至った。
“日本のモンスター”から“世界のモンスター”に
強敵たちとの戦いの中で、井上は真のポテンシャルを発揮し、世界最強を証明できるか 【写真は共同】
「マネジャーサイドから見ると、井上はスーパーバンタム級以上に上げて以降はマッチメイクを少し注意深くしなければいけないと思う。ただ、スーパーフライ級、バンタム級では誰と戦わせても問題ない。それだけのレベルにあるよ」
昨年9月、井上の米国デヴュー戦の相手を務めたアントニオ・ニエベス(米国)のマネジャーであるジョー・キンバオ氏はそう述べていた。そんな言葉通り、一般的に、今大会では井上が大本命と見る関係者が多い。
元王者のパヤノは侮れないし、ロドリゲス、テテも素晴らしい技量を持ったボクサーたちである。しかし、井上がポテンシャルを開花させれば、同級の対立王者たちでさえも苦もなく蹴散らしてしまっても驚かない。そして、順調ならば準決勝以降はすべて統一戦という文字通りの決戦の中で、“対戦者の質”という井上に関するほぼ唯一の突っ込みどころはまず間違いなく解消されるのだ。
この大会で優勝すれば、井上は真の意味で世界的名声を誇るボクサーになる。もちろん勝ち方次第だが、パウンド・フォー・パウンドでもトップ5、いやトップ3入りも有望。筆者は数年前から「もしかしたら井上が現役最強かもしれない」と言ってきたが、その真の実力が満天下にさらされる時がついにやって来たのだ。
これは井上の力量以外の部分も関わってくるが、まずは他のボクサーたちにも大きなケガやトラブルがなく、トーナメントが円滑に進むことを願わずにはいられない。そして、拠点となりそうなヨーロッパ、ロシアだけでなく、米国でも一部の試合が行われてほしい。その2つが叶い、井上の力が完全に解き放たれれば、WBSSが終わる頃には、“日本のモンスター”が“世界のモンスター”に飛翔している可能性は高いように思えてくるのである。