コンテンツの魅力を外に「染み出させる」 DeNAの”横浜スポーツタウン構想”とは?

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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

第80回のみなとフォーラムにはDeNAの西谷義久氏が登壇した 【スポーツナビ】

 公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第80回が3月1日、東京都港区の麻布区民センター区民ホールで開催された。

 今回は「DeNAスポーツ”横浜スポーツタウン構想”からラグビーの未来を考えよう!」というテーマで、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)スポーツ事業本部戦略部部長の西谷義久氏を招き、ラグビージャーナリストの村上晃一氏の進行のもと講演が行われた。

 DeNAのスポーツ事業本部では、「横浜DeNAベイスターズ」「横浜スタジアム」「横浜DeNAランニングクラブ」「DeNAバスケットボール(来季より川崎ブレイブサンダースを運営)」と4つの組織を運営している。西谷氏は、それらを横断して戦略的に統括する立場に立っており、スポーツビジネス全般において示唆に富む話が披露された。

大幅な観客動員増を達成したベイスターズ

 まず西谷氏は、横浜DeNAベイスターズ(以下ベイスターズ)で行った施策を紹介した。

 企業にとってスポーツチームを持つ意義は「広告・宣伝」「企業ブランディング」「福利厚生等」とされることが多い。かつてのDeNAも例外ではなく、ベイスターズの運営を始めた2012年シーズンは「企業のブランド価値を上げるためにスタートした」という。

 しかし、その後は立ち位置を「収益事業」に修正し、親会社からの補填(ほてん)なしで運営が成り立つよう、さまざまな施策を打ち出した結果、16年度には黒字転換を成し遂げた。そして現在、ブランド価値が上がった“ベイスターズ”をスタジアムの中だけに留めず、その外に染み出させて地域一体の発展・成功につなげるのが次のステップだという。

 続けて、球団のブランド価値を上げるために行われたこれまでの取り組みが紹介された。各取り組みの根本には「コミュニティボールパーク」化構想があるという。野球にそれほど興味がない人たちも、何らかのきっかけで球場へ足が向くような空間を作っていくという考えだ。

 ベイスターズの本拠地である横浜スタジアムの周辺エリアは、みなとみらい、山下公園、中華街などが隣接し自然と人が集まり、立地に恵まれている。歴史のある街で、「横浜の方々は横浜に対しての愛着や誇りをすごく大事にされている」。その中で、ベイスターズがそういった愛着や誇りにしっかりリンクしていくことを目指したという。しかし、運営当初の12年シーズン、チームは5年連続の最下位に沈んでおり「横浜の人たちにとって誇りになるようなチーム状態ではなかったかもしれない」状況であった。そのため、試合の結果に依存しない形でいかにお客様に来ていただき、喜んでもらえるかを追求する必要があったという。

 その代表的なイベントが「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」だ。“横浜・夏の一大イベント”をコンセプトに、限定デザインのユニフォームを制作し、当該カード3試合で選手が着用。来場者にも同デザインのユニフォームをプレゼントし、一体感を創出する。試合後には豪華な花火やレーザーなどの演出を施したセレブレーションなども実施するという。

 しかし、シーズン(ホーム主催ゲーム)約70試合全部にこのようなイベントを仕掛けることはできないため、当初は年に10カード程度、重点的に来場促進を行い、そこで多くの人に「面白かったね」と思ってもらい、また来場してもらうことを目的としている。

「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」だけでなく球団は多彩なイベントを用意することで、多くの客層にアプローチしていった。グラウンドで一晩寝泊りができる「グラウンドキャンプ」、球場脇の公園で飲食を提供しつつその場のスクリーンで試合を楽しめる「ハマスタBAYビアガーデン」、中継にはない映像が楽しめる「ベースボールモニターシート」、実際に選手が寮で食べているのと同じ「青星寮カレー」の販売など……。まさに試合の結果に依存しない形で、スタジアム内外でファンを、またファン以外の人も楽しませようとする試みがなされてきた。

 また講演当日である3月1日には、チームカラーと同じ青「横浜ブルー」にシートの色を統一した横浜スタジアムの姿が公開されている。より一体感が生み出されるスタジアムとなることが期待される。

 他にも多数の施策を打ってきたベイスターズだが、西谷氏は「これをやったら黒字化というのはなく、それぞれが魅力づくりのひとつ。満足度を上げ、足を運ぶきっかけになれば」と述べている。それらの積み重ねの結果、観客動員数は運営当初からの6年間で約80パーセント増を達成した。

DeNAが掲げる横浜発展の構想

DeNAは「横浜スポーツタウン構想」を掲げ、人で賑わう街づくりを推進している 【写真:アフロスポーツ】

 これまで横浜スタジアムへ「足を運ぶきっかけ」を創出してきたが、野球事業単体となるとどうしても球場のキャパシティやホームゲーム開催日数の制約があるため、機会、収益といった面でいずれ頭打ちになってしまう。そこでDeNAは、ベイスターズ、横浜スタジアムで築き上げてきたブランド価値を周辺エリアへ「染み出させて」いき、街全体の賑わいに寄与する「横浜スポーツタウン構想」を掲げる。
 
 このような、スポーツコンテンツや施設が生み出す価値を外へ染み出させ、周辺のエリアマネジメントを含む複合的な機能を組み合わせた空間づくりによって、街全体への賑わいに寄与することを「スマート・べニュー事業」と呼んでいるという(編注:「スマート・ベニュー」は株式会社日本政策投資銀行の登録商標)。

「スポーツが街のブランドやコンテンツとなって人を呼び寄せるような磁力のあるものになると、その周辺では余暇消費が生まれたり、開発が進むなど、エリア全体へ波及的に価値が高まっていきます。そのようにして経済的にも寄与していくのが我々の考え方です」

 横浜スタジアムの周辺エリアで、ベイスターズを中心としてコンテンツ価値を上げていけば、さまざまな相乗効果が見込まれ、街全体の発展につながる。その参考例として、海外の取り組みを3つ紹介した。

 一つ目は、米国・サンフランシスコのプロジェクト「Misson Rock」。MLBのサンフランシスコ・ジャイアンツとNBAのゴールデンステート・ウォリアーズ、両チーム本拠地の周辺エリアを再開発するプロジェクトだ。これは横浜スタジアムと卓球やプロレスなどが行われる横浜文化体育館の位置関係に類似しており、参考事例になりうるという。

 二つ目は、米国・セントルイスの「Ball Park village」。MLBのセントルイス・カージナルスのホームスタジアム前には巨大なビアホールがあり、パブリックビューイングや音楽ライブなどの総合的なエンターテインメントを提供している。横浜スタジアムの隣にある横浜市役所は20年に移転する予定だ。DeNAとしてはできれば同跡地を活用した事業展開についても今後検討していきたいのだと西谷氏は明かしてくれた。

 三つ目は、こちらも米国・ニューヨークの「Bryant Park」だ。もともとはあまり治安のいい場所ではなかったのだが、スペースの価値向上を図って行政が公園の管理を民間に任せるようになった。その結果、公園でさまざまなイベントが催されるなど人が集うようになり、平日昼間も賑わいを見せる場へと変貌を遂げた。この事例を参考に、スタジアムに隣接する横浜公園でも何らかの試みができないか模索しているという。

 すでに実際の取り組みが始まっている事例もある。スポーツビジネスを展開していきたいというベンチャー企業などをサポートし、新しいスポーツ産業創出などを目的とした「THE BAYS(ザ・ベイス)」を横浜スタジアムの隣で運営している。「次のスポーツ産業を生み出す共創基地」として、横浜スポーツタウン構想の中核を担うことが期待されているという。

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