世論を覆す大金星も、限界が見えた韓国 ロシアの地で感じた改革の必要性

慎武宏

国民の約7割が「グループ最下位」を予想

ドイツ相手に大金星を挙げた韓国だが、国民の約7割が「グループ最下位」を予想 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)グループリーグ最終戦で、前回王者ドイツを破った韓国。「アジア勢として初めてW杯でドイツを撃破」「FIFAランク1位に勝利」「戦車軍団ドイツを沈没させた“カザンの奇跡”」。さまざまな言葉でその快挙が報じられ、キム・ヨングォンとソン・フンミンの得点場面のダイジェスト映像がテレビでも何度も繰り返されたが、もっとも印象的だったのは試合後にカメラが捉えたシーンだった。

 日本の中継画面では映らなかったが、試合終了後も韓国の選手たちはピッチに残った。ドイツの選手たちが呆然とした表情でロッカールームへと去っていく中、韓国は全選手がセンターサークルに集まって円陣を組んで話し込んでいたのだ。第2節のメキシコ戦でも同じようなシーンがあり、おそらく互いの健闘をたたえ合っていたのだろう。ロシアで初めてかみしめる勝利の喜びと、厳しく苦しい戦いを終えて込み上げてくる万感の思いを巡らせながら。

 振り返れば、大会前から韓国代表への期待値は過去最低だった。「シン・テヨン号のF組予想成績は?」というアンケート調査で「最下位」と答えたのは61.3%。「3位」(6.7%)を合わせると、実に約7割が韓国のグループリーグ敗退を予想していた。

 韓国メディア『スポーツ・ソウル』が元韓国代表のイ・チョンスら10名のサッカー解説者に実施したアンケートでも、「良くて1分け2敗」の回答がもっとも多かった。初戦のスウェーデン戦前日、モスクワから決戦の地ニジニ・ノブゴロドに向かう飛行機で、今や人気サッカー解説者となったアン・ジョンファンと再会したが、「ロシアに臨む日本はどうですか? 韓国はかなり厳しい戦いになりそうです」と語っていたほどだった。

初戦でつまずき、その後も苦戦が続く

スウェーデンとの初戦を落とすと、その後のメキシコ戦で2連敗。苦戦が続いた 【Getty Images】

 案の定、韓国は初戦からつまずいた。“死の組”の中でももっとも勝算があると重視していたスウェーデンを相手に0−1で敗北。しかも、得意としてきた4−4−2ではなく、過去の強化試合でも試したことがなかった4−3−3を採用。これはスウェーデンの高さ対策として、国内合宿時はもちろん、オーストリアでの事前キャンプ中もリカバー日以外は非公開練習を貫いて準備してきたもので、シン・テヨン監督いわく「相手を欺くトリック」だったが、序盤から守備的に戦いながら、あわや失点という場面があまりに多かった。

「監督も選手も努力して準備してきたが、今日はプレーに少し自信がなかった」と振り返ったのは、2014年ブラジル大会で監督を務め、現在は韓国サッカー協会(KFA)の専務理事を務めるホン・ミョンボである。試合会場で別れのあいさつをするために言葉を交わしたが、浮かべたその表情には厳しさがにじみ出ていた。

 ロストフ・ナ・ドヌで行われたメキシコ戦でも、韓国の苦戦は続いた。本来の4−4−2のシステムに戻し、消極性が指摘されたスウェーデン戦よりも攻守の両方でアグレッシブだったが、ファウルが多く空回りの印象も拭えなかった。そんな中、前半26分にはスウェーデン戦に続き2試合連続でPKを献上し、萎縮ムードが漂う。後半21分にはキ・ソンヨンが奪われたボールをカウンターでつながれ、痛恨の失点。終了間際にソン・フンミンが意地のゴールを決めるが、時すでに遅しだった。

「韓国の国民たちに少しでも面白い試合、韓国サッカーがまだできるということを見せることが重要だと思っています。(結果を出せず)とても申し訳ない。選手たちは本当にピッチで最善を尽くしているということだけは分かってほしい……」

 試合直後のフラッシュインタビューで、目に涙を溜めながら声を詰まらせたソン・フンミンの表情が痛々しかった。メディアは「情熱はあったが……韓国、冷静さ不在が呼んだ惨事」(『OSEN』)「韓国対メキシコ戦……雪辱も反撃も希望もなかった」(『イルガン・スポーツ』)と落胆を隠せず、現地に応援に来ていたサポーターたちも肩を落としていた。

一部の選手に批判が殺到、SNSで罵詈雑言も

国内では一部の選手に批判が殺到、チャン・ヒョンス(20番)には脅迫まがいのメッセージも 【Getty Images】

 それどころかネット上では、一部の選手たちが猛烈な非難にさらされた。スウェーデン戦でPKを献上したキム・ミヌのインスタグラムには侮辱や暴言が並び、同じくスウェーデン戦でこれといった活躍を見られなかったキム・シンウクは自身のSNSアカンウトを非公開にせざる得ない状況に追い込まれた。

 誰よりも槍玉に挙げられたのは、チャン・ヒョンスだ。スウェーデン戦でのミスやメキシコ戦でハンドを取られてPKを献上したことに対して批判が集中。「代表永久除名」どころか「本人とその家族の入国を許すな」とまで大炎上し、追い詰められたチャン・ヒョンスの精神状態をおもんばかって、KFAのスタッフが記者たちとの接触を遠ざけたほどだった。

「内容も結果も悪く、ファンの怒りを買うばかり。このままでは今大会は、韓国サッカーが徹底的に打ちのめされた史上最悪の大会として歴史に記憶されるでしょうね」とため息をついていたのは、『スポーツ朝鮮』紙のイ・ゴン記者だ。06年ドイツ大会の取材で知り合い、今回のロシア大会でも行動を共にさせてもらった、彼の口から頻繁に出たのは「日本がうらやましい」ということでもあった。

 イ・ゴン記者だけではない。グループリーグ2試合を終えた時点で、韓国の多くのメディアは日本を羨望(せんぼう)の目で見つめていた。米国のスポーツ専門チャンネル『ESPN』から「最終戦でドイツに勝って決勝トーナンメントに進出する可能性は1パーセントしかない」と切り捨てられた韓国とは、あまりにも対照的だったことが、余計に劣等感を抱かせた部分もあっただろう。

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている。

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