連載:指導者として

【戸田和幸連載(3)】手探りで進めた慶大でのプレシーズン 「論理的思考」に強く働きかける

戸田和幸

止めて蹴るはサッカーの基本

トレーニングには流れとテンポが大切、無駄のないオーガナイズを作ることも重要 【宇都宮徹壱】

 人間、やはり楽しい時が一番、口も身体も動きます。

 僕は自分が非常に厳しい指導者だと自覚しています。
 どのみち次の日からはシビアな言葉を浴びることになる彼らが、実際どのくらいその時間を謳歌しているかは分かりませんが、ポジティブに1週間を始められるように、週の頭は必ず難しく設定はしてありますが、まず遊びから入ることにしています。

 トレーニングには流れとテンポが大切、ダラダラ一つのメニューを続けることはしません。
 そしてなにより集中力と強度がトレーニングには必要となるので、無駄のないオーガナイズを作ることもトレーニングには重要だと考えています。

 トレーニングが始まる前にその日に行う全てのトレーニングの準備を整えておき、休息以外の無駄な時間を省き、全てをスムーズに次に移れるよう準備をするということです。幸いに慶應は1面使ってトレーニングを行うことが出来るので、一つ終えては撤収しながら次に進むといった流れで行えています。

 パス&コントロール、というどこでもだれでも行うメニューがあります。

 つまり止めて・蹴る練習ということですが、僕はこのメニューをとても大切にしています。国によってはリアリティのないトレーニングは必要ない、という考え方のもと、こういったものは行わなかったりもします。

 僕の考え方も基本的には同じです。

 実際の試合に繋がらない、具体的なイメージが存在しないアンリアルなトレーニングは必要ないと考えています。

 が、やはり止めて蹴るはサッカーの基本、繰り返し練習すべきものでもあります。
 そして僕にとっては、このメニューから既にCチームとしてのプレーモデルを落とし込む作業は始まっています。

 コンセプトを外すことなく、色々なオーガナイズでのパス&コントロールを行っていますが、その全てにCチームとして目指すサッカーに繋がる要素が入るように心掛けています。

 一つとして流れ作業にならないように、様々設定を変えながら「見て」「選ぶ」ことを求め、その中で動きながらボールを「止め」「蹴る」メニューを彼らに提供し、時にDF役も置きながら、ボールを置く位置でその後の選択肢がどう変わるのかも伝えています。

 初めは2人称から始まりますが、次第に3人称・4人称と関わる数が増えていく中で、徐々にスピードを上げそこに精度を求めていきます。

 自分がやったとしても決して簡単なものではありませんが、「いつ」「どこ」「なぜ」が含まれたメニュー、そしてそれはCチームとしてのプレーモデルに着実に近づいていく為に考えたものなので、「自分たちのサッカー」を実現する為に徹底して行ってきています。

 我々が持つプレーモデルにおいて大切なことの一つが、攻撃において常に「遠くから選ぶ」ということです。
 これも実はサッカーでは基本中の基本なのですが、しかし何時如何なる状況においても、このことを頭に置きながらプレーするのは簡単ではありません。

 パスには受け手が必要。
 ですからパス&コントロールのTRにおいても、オーガナイズに変化も加えつつ、受け手のアクションを見てパスを出す場所を選ぶこと・変えることを求めてきました。

「遠くから」がテーマ

 どこから見て・選ぶべきなのか、僕のチームにおいては「遠くから」がテーマなので、こういったことを全てのトレーニングで落とし込みながら選手個々人とチームの強化に努めてきています。

 Cチームが追い求めるプレーモデル。

 それは不確定要素を極力排除し、全ての局面においてグループとして相手に対し常に有利な状況を作り、効果的な攻守を行うこと。

 攻撃においてはスペースを意識したビルドアップで意図的に敵陣へ運び、再現性の高いアクションでボックス内へと侵入しゴールを目指す。

 守備ではプレッシングとブロックのそれぞれを、相手の陣形に対して効果的に実践できるよう幾つかの形を用意し、意図的にボールを奪うこと。

 現代サッカーにおいてスプリント力は非常に重要なものですが、我々の場合は何より効果的なオーガナイズを持つことを最優先とし、スプリントは両ゴール前、そして攻から守に切り替わった瞬間に使うということもTRを通じて伝えてきています。

「我々はどこよりもポジショニングとオフザボールの動きが上手なチームになる」
 まだまだ先は相当に長いですが、この言葉をCチームの選手に伝えながら日々トレーニングに励んできています。

 彼らは慶應義塾大学の学生です。
 身体能力やテクニックでは劣るかもしれませんが、彼らが持っているであろう「論理的思考」に強く働きかけることで。
 戦術面だけでなく技術面においても向上させ、勝てるチームを作り上げる。
 それが、僕が考えたCチームのサッカーでした。

 前回の最後に書いたこととは違う内容になりましたが、時に判断を変えることがサッカーでは大切になります。
 3週前とは書くべきだと思ったことが変わったので、判断を変えてみました。
 それではまた次回もよろしくお願いします。

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著者プロフィール

桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。プロフェッショナルのカテゴリーで監督になる目標に向けて、18年からは慶應義塾大学ソッカー部のコーチに就任。また「解説者」というサッカーを「言語化」する仕事について、5月31日に洋泉社より初の著書『解説者の流儀』を出版

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