大関・栃ノ心の遅咲き出世は「吉」か? 三十路のキャリアと覚悟は頂へ通ず

荒井太郎

栃ノ心が放った強烈なオーラ

平幕で初優勝を飾った1月場所は14勝1敗。3月場所で10勝5敗、5月場所は13勝2敗と強さが際立っている 【写真は共同】

 夏場所は賜盃こそ、横綱鶴竜に最後はさらわれたが、初日から全勝ロードを突っ走り、終盤まで優勝戦線を引っ張ったのは、紛れもなく場所後に大関に推挙された栃ノ心だった。「三役で3場所33勝」と言われる大関昇進の目安が今回は全く議論の対象にならないほど、その強さは際立っていた。

 単に強いだけではない。ひとたび土俵に上がれば、“無双力士”特有の戦う前から相手を完全に制圧するほどの強烈なオーラをすでに身にまとっていた。

 過去25戦全敗と初顔から10年にわたって全く歯が立たなかった横綱白鵬と対峙(たいじ)しても、一歩も引けを取らないばかりか、“霊長類最強”とも形容したくなる肉体から放たれる「氣」が、優勝40回の横綱を勝負を決する前からすでに飲み込んでいたような気がしてならない。

25戦全敗だった横綱白鵬を、今場所の栃ノ心はがっぷりの体勢から寄り切った 【写真は共同】

 その前兆は対戦前日からあった。それまでの25回の対戦とは明らかに異質な空気が、今回の決戦前から流れていた。

「今場所は誰とやっても負けるイメージはなかった」と一夜明け会見では、事もなげにそう言い放ったジョージア出身の30歳。

 白鵬戦を翌日に控えた11日目には「迷いとかはない。気合いを入れて自分の相撲を取るだけ。(今回は今までとは)違うかもしれない。やってやるという気持ち」と自信に満ちた表情で語っていたのだった。

 果たして両者の26回目の対戦は、互いに左上手を立ち合いと同時に取り合う右四つがっぷりの体勢から、栃ノ心が両廻しを引きつけて堂々の寄り切り。白鵬も小細工することなく、大関取りに挑む相手の実力が幾ばくかを推し量るために、敢えて力勝負に及んだのかもしれない。真っ向勝負で角界第一人者を破った時点で、大関昇進は確実になったと言ってよかった。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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