大島僚太はロシアW杯で主軸になれる 味方が姿を探したくなる「気配り」の男

江藤高志

壮行試合のガーナ戦で予想外のフル出場

ロシアW杯に臨む日本代表メンバー23名に選出されたMF大島僚太 【Getty Images】

 大島僚太が先発したガーナ戦は驚きの連続だった。

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会の登録メンバー発表前日、最初で最後のテストに臨む大島に対し、前半の日本代表はなかなかボールを預けなかった。もちろん大島はボールを持つチームメートに対し、常に顔を出し続けていた。周到に周囲を見回して敵の存在を確認し、スペースの中に移動するという事前準備を欠かすことはなかった。しかし、パスは出てこなかった。

 もちろんそこには訳がある。大島が山口蛍とともに2枚並んだ日本代表のボランチセットに対し、ガーナ代表は13番(アイザック・サッキー)と5番(トーマス・パーティー)がちょうどハマるポジションを取っており、お互いにプレスを掛け合う状態にあったのだ。

 この前半について大島は「システム的に、ボランチのところは人数が合ってしまっているので、そこは来るなというところはありました」と話す。プレスを掛けられやすかった前半については、ボールロストもしており、反省点はあった。

 ただ、日本代表として低調な内容にとどまった前半については戦術的に説明できる。ガーナ代表は3トップの左右両サイドの選手をワイドに張り出させ、高い位置を取っていた。開始直後には右ストッパーの吉田麻也の右脇のスペースを使い、崩しにかかってきた。そうした揺さぶりもあったのか、左右のウイングバック、長友佑都、原口元気が最終ラインにまでポジションを落とし、5選手が一列に並ぶ後ろに重い状態になっており、大島、山口のボランチコンビについては、前方への選択肢が限られる状態が続いていた。

 試合後、3トップに対して5枚で守る日本代表の守備について、試合中に守り方を変えられなかったのかとの質問が大島に飛んだが「今日においてはそういうことよりも、3枚から5枚になってからの守り方というか、システムで臨むということもありました。自分たちで変えるということよりはまず、それ(3バックから5バックへの変化)をどうクリアさせていくのかということが強かったです」と話している。つまり意図的に3バックから5バックに移行した状態での守備をテストしていたということ。ガーナ戦前の合宿でも5バックでの守備を試していたし、また試合後には西野朗監督自身も3バックがテストだったとの見解を示していた。5バックに変化させた状態での守備も、テストの一環だと考えれば話のつじつまは合う。

 低調な前半は、そういう意味で守備のテストに割かれていたとも考えられた。それゆえ西野監督が3選手を投入した後半開始の時点で、大島がベンチに下がることは予想できた。A代表での実績がなかったからだ。だから、大島がプレーを続けることに驚かされた。

西野監督「外せないキープレーヤーだった」

5月31日の壮行試合ガーナ戦では、自身初の代表戦フル出場を果たした 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 前半8分のFKによる失点に続き、後半開始早々の6分に、今度はPKで2失点目を喫し、試合は難しさを増した。表層上は日本代表のポゼッション率が高まる結果となるが、試合内容的にはガーナの思うつぼという状況だった。すなわち彼らはある程度リトリートして守備を固め、チャンスを見てのカウンターでダメを押せればよかったからだ。

 こうなると中盤にスペースが生まれてくる。前半とは打って変わり大島にボールが集まり始めるのは、そういう意味で必然的な流れだったと言える。もちろん、大島が試合中にチームメートからの信頼を勝ち得たという言い方もできるのかもしれない。

 大島が前半から続けていた、ボールホルダーに対して顔を出すという動きについては、ガーナ戦前の練習中から行われていたことだった。しかしチームメートは大島を使おうとはしなかった。合宿中の日本代表選手の中に、大島に対する懐疑的な思いがあったのかもしれない。ただ、ボールさえ預けてくれれば、大島はその実力を発揮することができる選手だ。決定的なスルーパスやゴールに直結するような派手なプレーは多くないが、ピッチ上でその働きを見たチームメートは大島の存在理由を理解したはず。例えば相手に詰められないよう絶妙なポジションを取りつつ、食いついてくる相手を巧みなステップで外してボールを運び、確実に周囲の選手にパスをつなげる。局面を変え、プレーに緩急を付けられるという点で、チームメートがその姿を探したくなる選手であるのは間違いない。

 西野監督は後半14分に柴崎岳を用意する。ガーナ戦前の合宿での使われ方を考えれば、ベンチに下がるのは大島なのだろうと覚悟したが、ピッチを去ったのはボランチの主軸と見ていた山口だった。後半31分、井手口陽介の投入時にも長谷部誠が交代要員となった。

 大島を最後までピッチに立たせ続けた西野監督は、その判断について次のように述べている。井手口を試したかったという西野監督は「(交代については)当初は大島を考えていた」と話す。ところが2点を追いかける展開の中、「攻撃的なところで大島は、今日の展開力とプレーメークに関して外せないキープレーヤーだった」と続ける。大島が足をつっていた状態であることをベンチとして把握しながらも「追いかけなければならない中でのキープレーヤーだったと思う」と西野監督。大島にそれだけの評価が与えられていたのだ。

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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