31歳で王座陥落、岐路に立つ田口良一 僅差の判定負けも「結果は受け入れる」

船橋真二郎

ジャッジ全員が1ポイント差で挑戦者を支持

ジャッジ全員が114−113の1ポイント差で挑戦者を支持。田口良一(右)は僅差の判定で敗れ、王座から陥落した 【赤坂直人/スポーツナビ】

 試合終了を告げるゴングが鳴っても試合はまだ終わっていなかった。渡辺均・ワタナベジム会長がレフェリーのサミュエル・ウィリアムズ(米国)に詰め寄り、猛アピール。後押しするように大型モニターに最終ラウンドの“その瞬間”が何度も繰り返し映し出され、場内は騒然とする。しばらくしてスリップの裁定は覆り、ダウンに変更されることとなった。

 混迷のなか、田口良一(ワタナベ)本人は結果を冷静に受け止めていた。

「12ラウンドが終わって、『負けたな』と感じましたし、(スリップが)ダウンになりましたけど、それでも自分の負けかなと思っていました」

 果たして、再集計の末に出された判定は、ジャッジ全員が114−113の1ポイント差でチャレンジャーを支持していた。

 5月20日、東京・大田区総合体育館でWBA&IBF世界ライトフライ級タイトルマッチが行われ、日本人の統一チャンピオンとしては史上初となる防衛戦に臨んだ田口がIBF同級6位のヘッキー・ブドラー(南アフリカ)に判定負け。3年5カ月の間、7度守り続けてきたWBA王座、昨年の大みそかに奪ったばかりのIBF王座から陥落した。

田口の形にさせなかったブドラーのうまさ

序盤から田口の形をつくらせないブドラーのうまさが光る試合となった 【赤坂直人/スポーツナビ】

 場内に嫌な空気が広がったのは4ラウンドだった。ボディー攻めに後退し、ロープを背負った田口がクリンチで劣勢をしのぐ。手数で上回られ、3ラウンドには早くも鼻血を流していた。序盤はブドラーがペースを掌握した。

 ジムの先輩でテレビ中継の解説を務めた内山高志さんは試合前、「田口の圧力に押され、相手が足を使わされる展開になる」と予想していた。もともと田口にはスロースターターの傾向があった。前に圧力をかけて相手を押し込み、徐々にペースを引き寄せるのがこれまでの形だったが、そうさせてもらえない要因のひとつが、ブドラーのうまさだった。

「(ブドラーは)常に動くからやりにくいでしょうね。打たれても、くっついて距離をつぶしてきたり、サイドに動いたりもして。ボディーも打ちづらいと思うし、リズムが取りづらかったと思います」(内山さん)

 一発当て、相手が後退し、フォローの連打をつなぐことで田口のリズムは生まれる。だが、ブドラーは「ジャブで先手を取り、最初からペースを取ろうと思っていました」という田口のジャブを右カウンターで抑え、打ち終わりに回転の速いコンビネーションをまとめてリズムを切る。さらにガードを固め、ボディワークを止めず、機動力を発揮してポジションをサイドに変え、攻撃をつなぐことを許さなかった。

 動きを止めようと田口も得意のボディーを要所に狙い打ち、ブドラーは早くからトランクスのベルトラインを緩める仕草を何度も見せるなど、嫌がっていたのは確かだが、中盤もペースを完全に持ってくることはできなかった。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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