【ボクシング】“謙虚な王者”田口良一の自己主張 ライトフライ級で「一番強い」を証明へ
「ボクサーなら最強を目指すのが当然」
世界ライトフライ級の2団体王者となった田口良一 【写真は共同】
○【WBA王者】田口良一(ワタナベ)
判定3−0(116−112、117−111、117−111)
●【IBF王者】ミラン・メリンド(フィリピン)
田口良一が今回の一戦で身に付けた青と金色のリングシューズの外側には“Humility King”と縫いこまれていた。知人に言われて「いいな」と思ったその言葉の意味は“謙虚な王者”。声もか細く、顔は童顔。リングでは決して派手さはないが、気迫のこもった戦いをする。まさにぴったりの言葉だが、田口はこの一戦には“謙虚”以上の強い思いを持っていた。
「今は4団体(WBA、WBC、WBO、IBF)あって、チャンピオンがたくさんいる中で、ファンの人も本当に強いのが誰か分からない。統一戦に勝って強さを証明したい。メリンドに勝てばそれが証明できる」
「ボクサーなら最強を目指すのが当然」という田口にとってメリンドはうってつけの相手だった。過去40戦をこなし、たったの2敗。スピードがあり、カウンターのうまさがあり、また中間距離からの踏み込みも速く、当たれば倒せるパンチ力も兼ね備えている。
田口は2年前、世界王者になる前のメリンドにあいさつしたことがあった。見ただけで「この人強いんだろうな」と風格を感じたという。その予感どおりに、IBF暫定王者となったメリンドが日本のファンに一躍名前を売ったのは2017年5月21日のこと。正規王者の“激闘王”八重樫東(大橋)との一戦で、初回に3度のダウンを奪い、1R2分45秒・TKO勝ち。あっという間の秒殺劇に有明コロシアムが凍りついた。そして初防衛をへて、今回「4団体を統一するのがゴール。まずはWBAのタグチ」と日本へ乗り込んできた。
終盤にエンジン再点火させてポイントを取りにいった
明確な差がないまま中盤まで展開したため、終盤にエンジンを再点火させた 【赤坂直人/スポーツナビ】
ただ、2ラウンドはセコンドの指示を受けて、左ジャブを多用し、メリンドの飛び込みを鈍らせた。序盤にペースを握られると、老獪(ろうかい)なメリンドに何もできないまま12ラウンドが過ぎてしまうことも想定された。昔ならリング上で冷静さを失うこともあったが、田口はこれで世界戦も8試合目。あわてることもなく、「落ち着いてセコンドの指示が聞けた」と軌道修正に成功できた。
しかし、中盤から終盤にかけてメリンドがバッティングでの流血はあったものの、両者に明確な差がないまま試合が進む。田口の左ジャブは結果ポイントを取ることとディフェンスには有効だったものの、試合を決める一打にはつなげられなかった。また、メリンドは細かいパンチをまとめてはクリンチで逃れ、手数の多さをジャッジへ印象付けようと試合巧者ぶりを発揮していた。
そんな中、9ラウンドにはメリンドの踏み込みを許して劣勢に終わった。石原雄太トレーナーは「8ラウンドまでもしかしたらイーブンかと思った。9ラウンドを取られたので、残り3ラウンドは行かないと負けると思って発破をかけた」。田口も「中盤に明確にポイントを取ったと思うラウンドがなかった。このままでは負けるので気持ちでいくしかない」とエンジンを再点火させる。
10ラウンド以降はメリンドの肩に預けるようにしてインファイトを仕掛け、左右のボディ、右ストレートを繰り出していった。メリンドも田口の気迫に押されてか後退するシーンが目立ってきた。KOこそならなかったが、田口は12ラウンド終了のゴングが鳴ると、勝ちを確信するガッツポーズ。実は8ラウンドの時点で77−75、2者が78−74とリードしていたが、石原トレーナーの発破が奏功した結果となった。
ジムの看板選手となったことのプレッシャーもはねのけた
ジムの先輩・内山高志が引退し、看板選手へと上り詰めた田口(左)。だからこそ「一番強いこと」を証明する戦いを見せていく 【写真は共同】
今後、統一王者としてのプランについて、「まずは休ませてください」と苦笑し、疲れた表情を見せつつも、「来年はもっと強くなるために精進したい」とさらなる成長を誓った。「メリンドに勝って、自分が強いという自信がついた」という田口が、「一番好き」なライトフライ級で「一番強いこと」を証明するために戦い続ける。そのときはワタナベジムを引っ張る選手ではなく、日本のボクシング界を背負う選手になっているだろう。
(取材・文:竹内英之/スポーツナビ)
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