ゴロフキンが魅せた破壊的なKO劇 次戦はカネロとの再戦交渉次第か!?

杉浦大介

ミドル級の帝王ゲンナディ・ゴロフキンが圧倒的なKO劇で王座を防衛した 【Getty Images】

 ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)の圧倒的なKO勝ちで試合が終わった瞬間、どこか懐かしい気がしたのは筆者だけではなかったのではないか。

 ミドル級の帝王の破壊的パンチがヒットし、挑戦者は倒れこむ。スタンドのファンは瞬間的に息を飲み、その後に大歓声が続く。ほんの2年ほど前まで、“GGG”のすべてのファイトがそんな形で終わった。随分と久々に思えるゴロフキン主演の通称“ビッグ・ドラマ・ショウ”が、米リングに戻ってきたのだ。

 現地時間5月5日(以下同)、米国カリフォルニア州カーソンのスタブハブ・センターで行われたプロボクシングのWBAスーパー、WBC世界ミドル級タイトル戦で、王者ゴロフキンが挑戦者のバーネス・マーティロスヤン(アルメニア/米国)に2ラウンド1分53秒KO勝ち。サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の出場辞退後に急きょ用意されたチャレンジャーを蹴散らし、王者はこれでWBAは19度、WBCは8度目の防衛となった。

ミドル級最多防衛記録に並ぶ

コンビネーションがすべてヒットし、マーティロスヤンは崩れ落ちるしかなかった 【Getty Images】

「KOできて良い気分だ。バーネスはとても良い選手で、第1ラウンドには何発かもらってしまった。(ただ、)第2ラウンドに仕事をやり遂げられた」

 試合後にゴロフキンがリング上でそう語ったように、第1ラウンドには確かにパンチを受けるシーンもあった。その一方で、強靭なジャブ、アッパーを軸に序盤から相手に確実にダメージを与えていたのも事実。そして、2回のフィニッシュは強烈だった。

 ロープ際で大きな右を当てると、ジャブ3発から右、続いて左フック、右、左フック、さらには倒れこむところに右と、ゴロフキンが繰り出したすべてのコンビネーションパンチがヒット。マーティロスヤンはまるで散弾銃の銃弾を浴びたように崩れ落ち、短いタイトルマッチは戦慄的な終幕を迎えた。

「まるで列車に跳ね飛ばされたみたい。一発だけでなく、彼のパンチはすべてが同じようにパワーを備えていた。これほどの強打はこれまで経験がなかった」

 マーティロスヤンの言葉はシンプルだが、それゆえに実感がこもって聞こえた。かつてはいつもこうだった。この日の会場に集まった7837人の人々が“シンコデマヨ(メキシコの祝日)”に望んでいたのも、こんなパフォーマンスだった。

 これで通算20度目の防衛となり、かつて“死刑執行人”と呼ばれたバーナード・ホプキンス(米国)がマークしたミドル級の史上最多記録に並んだ。ゴロフキンの名は歴史に刻まれ、時を超えていく。ただ、そんなレコードの目撃者になったことよりも、何より、一昨年9月のケル・ブルック(英国)戦以来となる3戦ぶりのノックアウトが見れたことにファンは何よりも満足したに違いあるまい。

「ミドル級の選手を一掃したい」

現在のミドル級には強豪がひしめくが、「ミドル級を一掃したい」とゴロフキン 【Getty Images】

 この試合のゴング前、36歳になったゴロフキンに衰えが忍び寄っていると見たファン、関係者は多かった。昨年3月のダニエル・ジェイコブス(米国)戦で23試合連続KOの記録がストップし、同9月のアルバレス戦は疑問の残る判定ながらドロー。前述通り、今戦でも初回には少々危うい形でもともと1階級下の選手であるマーティロスヤンのパンチを被弾していたのだから、やはりもうピークは過ぎていると考えるのが自然なのだろう。ただ、たとえそうだとしても、この日の破壊的なKO劇で、王者は依然としてファンをエキサイトさせるだけの力は残していることを証明したと言って良い。だからこそ、今後が再び楽しみになる。

「僕は多くのベルトを持っているし、それが欲しいものとは誰とでも戦う。ミドル級(のトップ選手)を一掃したいんだ」

 ゴロフキンはそう息巻いたが、実際に今のミドル級には多くの強豪がひしめいている。WBO王者ビリー・ジョー・サンダース(英国)、元WBC王者アルバレス、元WBA王者ジェイコブス、WBC暫定王者ジャーマル・チャーロ(米国)、WBA正規王者村田諒太(帝拳)、元WBA、WBO世界スーパーウェルター級王者デメトリアス・アンドレイド(米国)、IBF指名挑戦者セルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ/ロシア)など……。名実ともに備えた役者がこれだけそろったハイレベルの階級で、3本のベルトを持つGGGは誰を次の標的にするのか。

「彼に準備ができているなら僕の方は構わない」

 ゴロフキンが述べた“彼”とは、もちろんカネロ・アルバレスのことである。プライオリティーとすべき敵は、やはりメキシコにあり。

 もともと今回のマーティロスヤン戦は、ライバルがドーピング陽性反応後に再戦出場辞退したがゆえに組まれた代替興行だった。ラスベガスコミッションから受けたカネロの出場停止処分は8月には解ける。だとすれば、9月のメキシコ独立記念日にはリマッチが仕切り直しされると考えるのが自然な流れ。マーティロスヤン戦後の会見では、ゴロフキンを抱えるK2プロモーションズのトム・ローフラー氏もカネロとの“因縁の再戦”が最優先事項であると繰り返していた。しかし――。

間違いないのはミドル級激動の1年になるということだけ

最優先はカネロ(左)との再戦となるが、短い期間ですべてがクリアになるか。それとも…… 【Getty Images】

 今回のシンコデマヨ興行を前後して、「両陣営の再戦交渉は一筋縄ではいかない」という声が盛んにささやかれるようになった。5〜9月のインターバルはメガファイトの交渉、プロモーションをまとめるにはやや短い。しかも一連の薬物事件で舌戦を繰り返したゴロフキンとカネロの間には、これまで以上の嫌悪感が生まれている。そんな両者が条件面で迅速に折り合えるのか。次のビッグファイトの舞台とされる9月15日までに、報酬、開催地、薬物検査の方法などで着地点を見つけられるのか。

 ゴロフキン対カネロが首尾よくまとまれば、遺恨とともに2018年最大のビッグファイトへのカウントダウンがスタートする。交渉がこじれ、破談に終わった際には、他のさまざまな可能性が膨らんでくる。その場合には、ゴロフキンはIBFタイトルを守るためにデレビャンチェンコとの指名戦に臨むか、チャーロ、ジェイコブスといった強敵のリスキーな挑戦を受けるか、それともかつてマイク・タイソン(米国)が沈んだ極東の“ドーム”で村田と雌雄を決するか……。

 ゴロフキンのKOパフォーマンス復活とともに、群雄割拠のミドル級でまた新しいドラマが始まろうとしている。すべてはカネロとの再戦の交渉次第。おそらく向こう1カ月以内には今後の方向性が見えてくる。現状ではっきりしているのは、19年までにこの階級が大きく動くのは間違いないということだけである。
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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