連載:指導者として

【戸田和幸連載(2)】最適なプレーモデルを探し出すために 2人称からの脱却、急ぐことなく基本から

戸田和幸

Cチームにとって最適なプレーモデルとは?

一つのチームを作るため、Cチームにとって最適なプレーモデルを探すことから始めました 【宇都宮徹壱】

 一つのチームを作る時にまずすべきことは何か。
 引退して以降、解説業と並行して指導者としての勉強も欠かさず行ってきました。その中で学んできたことは「いかにそのチーム特有のプレーモデルを探し出せるか」ということ。

 一人として同じ選手はいないし、当然ながら同じチームも存在しない。
 自分が預かることになった選手達の性格を含めた特徴、能力を把握し、その選手達で作り上げることが出来る、最も勝つ確率の高いサッカーとはどんなものとなるのか。
 採用するシステムなどはそのあとに付いてくるもの、まずはCチームにとって最適なプレーモデルを探すことから始めました。

 私が預かるCチームの選手達は皆、とても明るく真面目な好青年ばかりです。
 ただ、大学サッカー特有のものなのか、はたまた慶應ソッカー部の伝統なのか、今時珍しいんじゃないかと思わせる上下関係を感じました。

 それは指導者に対しても同様で、積極的に話かけてくる選手はおらず、与えられることに対してはとても前向きに取り組むことができますが、「君だったら何が出来る?」という問いかけに対して自分の意見がないように見える選手がとても多く、サッカーに必要なコミュニケーションスキルも低いと感じました。

 人間誰でも初めは緊張もするし、相手がどんな人かを探る部分もあるので、そこに対して急ぐのではなく、まずは目線を合わせることに注力しました。
 具体的な言葉としては「僕は指導者としてここにいるが、それは全て君たちの為。サッカーはプレイヤーのもの、君たちが主役であり僕はあくまでもサポートする為にいる」と話したように記憶しています。

 また「僕のチームに於いては、分からないままプレーすること、分かっていないのに分かった顔をすること、分からないのに確認しない、ということは一切認めない」ということもスタートの時点でハッキリさせました。

自分たちが持っているものを効果的に生かす

 選手というものは「自分は出来る」ということを常に示したいもの、「出来ない」「分からない」ということは積極的には表現しないものです。
 理由は簡単、出来ないのなら使わないとなることを恐れているから。
 だから、一番初めに、僕のチームにおいてはプレーする上でクリアでないことは、必ずその時に解決しよう、というルールを決めました。

 なぜかというと彼らの映像を初めて見た時に、既に頭に思い浮かんだことがあったからなんです。
 それは「思考で上回る」ということでした。
 選手としての全体的な特徴の一つに、やはり勉学にしっかり取り組んだ上でサッカーにも努力してきたことが影響しているのか、身体的に劣る選手が多いということが挙げられます。
 そもそもの身体つき、走るスピード、ジャンプ、ぶつかる力、全てにおいて今日まで試合をしてきた全ての大学に劣ります。

 そんな中、彼らの得意なこととは何か、それは物事を理解する力ではないかと思いました。
 勉学にも励み、きちんとした成績を携えて慶應義塾大学に進学し、その上でサッカーにもひたむきに取り組んでいる。

 だからこそフィジカルを徹底的に、という発想ではなく。
 弱い部分も改善できるよう時間を使いますが、それよりも自分たちが持っているものを出来るだけ効果的に、効率的に育み使いながらサッカーを目指すという方向性をまず選手達に示しました。

 では自分たちが持っているものとは何か、全ての相手が「格上」となるIリーグにて、結果を残すことが出来る形とは何か。
 それを探すことからスタートしました。

 何と言っても僕自身、初めてチームを持つ身だということもあり、一つ一つが全て新しいチャレンジ。
 プレーモデルの構築、2人称からの脱却、そしてトレーニングでは先を急ぐことなく。もう一度基本からやり直すことから始めました。

 次回はプレシーズンの中で具体的に行ってきたことと、その中で起きた幾つかの出来事について紹介します。

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著者プロフィール

桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。プロフェッショナルのカテゴリーで監督になる目標に向けて、18年からは慶應義塾大学ソッカー部のコーチに就任。また「解説者」というサッカーを「言語化」する仕事について、5月31日に洋泉社より初の著書『解説者の流儀』を出版

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