「本田は誰よりもチャレンジしている」 戸田和幸が見た走り続ける男の2014年

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元日本代表で現在は解説者も務める戸田氏に、本田の2014年を総括してもらった 【スポーツナビ】

 幼い頃から憧れだったミランで10番をつけるという最高の形でスタートした本田圭佑の2014年。だが、初年度の成績は14試合1得点と振るわず、集大成として臨んだワールドカップ(W杯)ブラジル大会もグループリーグで敗退するなど大きな挫折を経験した。しかし、2年目のミランではゴールを量産し、日本代表ではハビエル・アギーレ監督から最初の4試合でキャプテンを任され、新たなプレースタイルを見せるなど心身共にさらなる成長を遂げている。

 そんな本田の1年を、自身も日本代表としてW杯を戦い、海外クラブでのプレー経験を持つ戸田和幸氏はどう見たのか。現役引退後、解説者として、本田が出場した数多くの代表戦やミラン戦を見ている戸田氏に総括してもらった。

変わったのはオフの動き

本田の変化は、ボールを持っていないときのオフの動きに現れている 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

――まずはミランでのプレーについてです。今季の本田選手を見て、どこが変わったと思いますか?

 基本的に思ったのはオフ(ボールを持っていないとき)の動き。今まではオン(ボールを持っているとき)の動きで勝負していると思っていたのですが、オフの動きにすごく取り組んでいると思います。昨シーズンは違う監督(クラレンス・セードルフ)の下でやっていましたけれど、明らかにコンディションも上がったと思いますし、プレシーズンを経て、組織の中で自分が生きていく道を見つけたのだと思います。

 開幕戦(8月31日のラツィオ戦)でもそうでしたけれど、チャンスになったら70メートルスプリントしてゴールを決めました。守備面でも、危ないと思ったら同じ距離をスプリントで戻ります。一生懸命マークして相手についていくプレーもマメにやっています。今まではオンの選手として代表でも中心としてやってきましたけれど、今は中心ではない。脇役ですけれど、いかに主役に躍り出るかみたいなことをすごく考えてやっていると思います。

――ミランには昨シーズンの冬の移籍市場(14年1月)で移籍しました。シーズン途中からの加入はやはり難しかったのでしょうか?

 難しいです。自分の話を出すのは非常に恥ずかしいのですが、僕の場合は冬に入ると全然練習ができなかった。すぐに試合に出たわけではないので、レギュラーの選手と練習したことはほとんどなかった。ただ試合数が多いからそれに合わせてやらなければいけないんです。本田の場合、試合にはすぐ出ましたが、試合に出るための関係をチームメートと作る時間がなかったと思います。

 イタリアは戦術的に細かくて、結果を残さないと評価されないところがあります。今の彼を見ていると自分らしさは持ちつつ、そこに合わせていっていると思います。そのあたりで言うと僕は、イングランド(トッテナム)とオランダ(デン・ハーグ)にいました。サッカーの仕方は国によってちょっと違うし、同じように見えるシステムでも違います。

――本田選手はイタリアのサッカーに合っていると思いますか?

 例えばイングランドに行くと、もっとフィジカルが必要ですし、もっと縦に速いサッカーです。トップ下のポジションもありません。サイドだともっと速さが求められる。そういう面では、イタリアは賢くなければできないリーグだと思います。常にハイスピードを求められるわけではないし、各ポジションで分業するところもあるので、本田に合っていないとは思わないですね。

今は前で勝負したほうがいい

本田のポジションについて、戸田氏は前で勝負したほうがいいと見解を語った 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

――プレースタイルの変化にはW杯でグループリーグ敗退に終わった影響もあると思います。本田選手はブラジルW杯を集大成だと言っていました。W杯での戦いを戸田さんはどう見ましたか?

 コンディションが悪いと思いました。疲れだと思います。(冬に移籍して)休みなくいろいろと動いていたのもあるかもしれません。今季に向けたプレシーズンが終わった頃(8月)と比べると、体つきと表情が違います。プレッシャーが重かったのかもしれませんし、準備がうまくいかなかったかもしれません。日本の選手はみんな重そうでした。グラウンドの状況なのか、気候なのか、プレッシャーなのかは分かりませんが、本田はきつそうでした。そういうのも含めて、本人の中ですべてを考え直さなければならないと言っていました。それが結局こういうことじゃないかというのは今季のプレーを外から見ていてつながってきます。

――代表でもポジションはミランと同じ右のウイングになりました。ミランと代表で役割に違いはありますか?

 代表では、ホンジュラス戦(11月14日、6−0)ぐらいじゃないですか。自分たちがボールを持つことができて、いい距離感の中で速攻的な形もできていました。そのほかの試合で本田がミランのような活躍ができた試合はないですね。チームとしてそのスペースが作れませんでした。ジャマイカ戦(10月10日、1−0)やホンジュラス戦のように、日本がある程度の主導権を握っていて、押し上げた中であればボールを持てるので、走りすぎず、前に残った形で連係を作ることはできます。アタッカーに関しては、流れを見てポジションを変えることができるというのも選手の大事な要素だと思います。そういう意味では代表でやっているときのほうが、より本当は自分がやりたいことは出しながらやれているのではないかと思います。ただ、それが本当に良いことなのかどうかというと分からないですよね。選手が自分でやりたいということと、監督がやってくれということのどちらが正しいかというのは意外と分からない。

――戸田さんから見て、本田選手は右のウイングが適正だと思いますか?

 トップ下のポジションが今はないので、インサイドハーフはありかなと思いました。(アルベルト・)ザッケローニさんに聞いたら、本田はスピードがないけれど(適正は)トップ下だと言っていました。トップの選手と比べたらスピードが足りない、ただ身体が強くてボールを収めることができるという言い方をされていました。ただ、現在の右のウイングでも、純粋なウイングとしてプレーしているわけではありません。予測と動き出しの速さで(相手を)出し抜いていけることは証明しています。

 インサイドハーフをやっても守備をしなければならない。でも、試合に関与できるというところで言うとインサイドハーフのほうが、より関与できますね。右のワイドにいると蚊帳の外になってしまう展開もありますから。代表の試合でもそういうシーンはあります。でも、今は点を取るというところで勝負してもいいと思います。そこから下がってもいいわけですから。今は前で(アタッカーとして)勝負したほうがいいと思います。

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