横浜で見たプロレスの“完成形”の試合 東京03豊本のプロレスあれこれ(35)
今回は大日本プロレス5.5横浜文体で行われたBJW認定ストロングヘビー級王座戦、王者・鈴木(右)vs.挑戦者・関本(左)について 【写真:SHUHEI YOKOTA】
大日本の上半期最大のビッグマッチです。
デスマッチヘビー級とストロングヘビー級の二本柱で人気の団体。
この日のメインのデスマッチは壮絶過ぎてデスマッチを見慣れた僕でも固まる瞬間があるほど、とんでもないものでした……。
それはそれでコラム1つ書ける内容でしたけど、そのデスマッチの衝撃にも負けない試合がセミファイナルに!
<BJW認定ストロングヘビー級王座戦>
[王者]鈴木秀樹
[挑戦者]関本大介
今回のコラムは鈴木秀樹vs.関本大介についてです。
野次のない30分ドロー 試合後は大拍手
1つ1つの技に説得力があるぶつかり合いでした 【写真:SHUHEI YOKOTA】
王者がベルトを防衛という結果ですが、とんでもなく内容が濃い30分でした。
試合開始、腕の取り合いから始まり、じっくりとしたレスリングの攻防が続き、最初のロープワークに至っては20分を過ぎてから。派手な大技は極めて少ない。しかし細かい技ひとつひとつに異常なまでの説得力。繋ぎ技として使われるようなボディスラムでもフィニッシュになってもおかしくないぐらいです。繰り出す技すべてに、「この技で3カウント取るんだ!」「ギブアップさせるんだ」という気持ちが込められた攻防。
実に丁寧に試合を進める2人の戦いに、お客さんは息をのんで見守り、徐々に選手を応援する声になる。
30分ドローの結果に誰1人として「延長!」というヤジがない。お客さんが満足した証拠です。そして両者を讃える大拍手。
フライングメイヤーに見た鈴木秀樹のアンチテーゼ
基本的な技の攻防ながら、それでもお客さんを魅了する表現力は、現代プロレスのアンチテーゼにもなりえるものでした 【写真:SHUHEI YOKOTA】
「デスマッチだのストロングだの言う前に、プロレスをやらないといけない」
この発言通りの素晴らしい攻防。
試合の中でまず鈴木選手が技術で支配する。それを関本選手が力で返そうとする。それに対して鈴木選手が技術プラス力で必死に制しようとする。それを必死に耐える関本選手。
例えば、フライングメイヤーという技。
プロレスの試合で見られる基本的な技ではあるが、首を極めてから投げるのが正しい形。
それを関本選手は力で投げられまいと耐え、ボディスラムで返す。しかし投げられながらも鈴木選手は極めている首を離さない。再びフライングメイヤーの体勢になり首を極める。
プロレス団体が増えレスラーの数も増え、「プロレスラー=特別な人間」という図式が崩れている昨今。ここまでの技術で、ここまで力で、ここまでの表現ができますか? レスラーは形だけのプロレスしていませんか? ファンは形だけのプロレスにごまかされてませんか? そういう鈴木秀樹選手のアンチテーゼにも見えました。
「今年のベストバウト」と言うのも軽々しい
引き分けという結果もプロレスらしくていいですね 【写真:SHUHEI YOKOTA】
煽りのVTRから始まり、その通りの試合をする分かりやすい構成。ここまでは簡単です。
しかし、その内容が、「僕、こんなすごい技術持ってますよ」という品評会的な試合に陥りがちなんですが、そんな風にならず、基本的な技だけで魅せる重量感。しかもそんな高い技術の攻防であるにもかかわらず、プロレスを細かく知らないマニアじゃない人でも伝わる攻防。
あ、ここが極まってるから痛がってるんだな、それを今逃げようとしてるんだろうな。見ていてすごく分かりやすい。
総合格闘技を見ていて、「あ、極まってる? え? タップしたけど、どこが極まってたの?」みたいな場合もあります。僕はそんなに詳しくないので、いざ細かい事は分かりません。本人もしくは経験者しか分からない部分も多いと思いますので、それはそれで高い技術で相手を倒すわけです。技術とは手の内なので、お客さんに伝わってしまっている時点で相手にもバレバレで、勝つ事はできません。
勝つ事がすべての格闘技と、勝つ事プラスお客さんに伝える事を同時に行うプロレスの違いなのですが、プロレスというものにおいて、この試合、完成形の試合だと思いました。
引き分けっていうのも良いですね。勝つ事がすべてではない場合もあるというプロレス特有な感覚。
「今年のベストバウト!」と言うのも軽々しく感じるぐらい素晴らしい試合でした。業界内に向けての教科書的な要素もすごくあり、でもプロレス本来の大衆娯楽というジャンル内で行われる見事なまでの攻防。
プロレスの試合の完成形の1つと思いました。
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