海外競馬メディアにカルチャーショック 香港のホースマンたちからもらった勇気

山本智行

海外メディアは驚くほど大ベテランばかり

地元シャティン地区の警察官ビエリ・チャンさん、安田記念で会えるかも? 【提供:山本智行】

 もちろん、新たな出会いもあった。ゴール前でユニークな馬の絵を掲げていたビエリ・チャンさんがその人。2年前から馬の絵を描き始めた地元シャティン地区の警察官は、ビューティージェネレーションの「マイル」の勝利を見届け「安田記念(6月3日、東京)に行くときは私も応援に行くつもり。もちろん、この絵を持って」と話しかけてくれ、握手して別れた。

 一方、海外メディアとの交流は、ちょっとしたカルチャーショックというか、何かと考えさせられることもあった。というのも彼らが驚くほど大ベテランばかりだったからだ。オランダ、オーストラリア、アメリカ、UAEなどなど。平均年齢はおそらく軽く60歳、いやもしかすると70歳は超えていたんじゃないだろうか。

 日本でも競馬記者の高齢化は進んでいるように思えたが、オグリキャップの現役を知っている記者はわたしを含めて数人いる程度。しかし、この重鎮たちの中に入ると、50代前半のわたしなんかまだまだひよっこだ。

豪州キャンベラ出身のゲイル記者がワーザーの宝塚記念参戦の可能性を教えてくれた 【写真:仲真吾】

 例えば、豪州はキャンベラ出身のゲイル記者は話し好きの品のいいおばあさんという感じ。しかし、なかなかの行動派で記者室でじっとしていない。

「私の好きな馬はブラックキャヴィア、ウィンクス、そしてディープインパクト。彼の走りはすばらしく美しかった」。これまでジャパンCや安田記念の取材で何度も日本を訪れており、京都観光がお気に入りだとか。そんな彼女との何気ない会話から“ニュース”を聞くこともできた。

「今年の6月に私、日本に行くかもしれないのよ。だってワーザーが宝塚記念(6月24日、阪神)に出るかもしれないから。日本の6月は雨が多いからワーザーにはいいかもしれないわね」。ワーザー(セン馬7歳)と言えば、GI・4勝を挙げる15/16年の香港年度代表馬。管理するジョン・ムーア調教師に確認すると「地元でマイルを使って日本に向かう」と参戦に前向きだった。さすがの情報網に恐れ入った。

オランダのホランドさんは記者歴30年、今回のお気に入りはファインニードルとのこと 【提供:山本智行】

 続いてオランダのホランドさんは記者歴30年。お国柄か大柄で美しく朗らかな女性だった。「私はジャパンC、メルボルンC、ドバイWCのようなGIレースを中心に取材しています。香港もよく来ますよ。今回の日本馬ではファインニードルがお気に入り。足さばきが軽やか」と話し、おいしそうにタバコをくゆらせた。そのファインニードルは惜しくも「スプリント」で4着。もしかすると悔しい思いをしたかもしれない。

米国・シカゴ在住で記者歴40年のロバート記者(右)と、バスの手配などで何かとお世話になった豪州の重鎮ロバート記者(左) 【提供:山本智行】

 ロバートおじさんは米国・シカゴ在住で記者歴40年。もっぱらの話題はメジャーリーグのカブスだったが「そうそう、今年のアーリントンCのとき、阪神競馬場にいたよ。アーリントンミリオンに日本の馬も来てほしいが、難しいかな」。競馬場行きのバスでは隣同士になり「スプリント」を勝ったアイボリーを熱心に推奨。レース後、満足そうな顔が印象的だった。

UAEから来たカメラマンのセドリックさんは異色経歴の持ち主だった 【提供:山本智行】

 異色だったのはUAEからやって来たカメラマンのセドリックさん。現在71歳だが、カメラマンになったのはリタイアした10年前から。「写真は趣味で撮っていたが、いまは仕事で世界を旅して回れる。こんな素晴らしいことはないよ」と実に生き生きとしていた。あと、豪州の重鎮ロバートさんにも親切にしてもらったことを付け加えておきたい。

早く引退させて……なんて言ってられない

 日本では昨今働き方改革とか、人生100年という言葉を盛んに聞き、その度にうさんくささを感じざるを得なかった。「何か裏があるのではないか。いつまで働かせるつもりなのか? 早く引退させてくれよ」とぼやいていたが、いやはや、そんなこと言ってられない。海外の競馬メディアは一歩先を進んでいた。みなさん、元気いっぱい。安田記念か宝塚記念か、もしくはジャパンカップか。どこかでの再会を楽しみにしつつ、彼らから勇気をもらった気がした。

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著者プロフィール

やまもと・ちこう。1964年岡山生まれ。スポーツ紙記者として競馬、プロ野球阪神・ソフトバンク、ゴルフ、ボクシング、アマ野球などを担当。各界に幅広い人脈を持つ。東京、大阪、福岡でレース部長。趣味は旅打ち、映画鑑賞、観劇。B'zの稲葉とは中高の同級生。

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