低迷から一転、何が鳥取を変えたのか? J2・J3漫遊記 ガイナーレ鳥取<前編>
ブラジル人トリオの活躍で首位に躍り出た鳥取
鳥取のブラジルトリオのひとりであるレオナルド。この日は敗れたが、今季6ゴール目をゲット 【宇都宮徹壱】
ガイナーレ鳥取のGM、岡野雅行は慎重に言葉を選びながらも、こみ上げてくるうれしさを隠そうとはしない。第6節を終えた今季のJ3リーグ。ここまで4勝2分けの無敗で、鳥取は首位をひた走っている。昨シーズンはJ3最下位に終わり、ホームではわずか1勝しかできなかったのに、今季はすでにホームで2勝。好調の要因に挙げられるのは、1年ぶりに復帰したフェルナンジーニョ、そして新加入のレオナルドとヴィートル・ガブリエルのブラジル人トリオであることは間違いない。このうち、若いレオナルドとヴィートル・ガブリエルをサントスから獲得したのが、岡野GM自身であった。
「去年の秋に2泊4日の強行日程でブラジルに飛んで、4人の候補者の中から選んできたのがレオナルドとヴィートル・ガブリエルです。ウチが日本の3部でお金もあまりないことは、もちろん伝えました。それでも彼らは『ボールさえあれば、平和な日本でサッカーがやりたい』と言うんですね。彼らが暮らしていたのは、人身売買や殺人が日常化している治安の悪い地域でした。そこから何とか抜け出して、サッカーできちんと生計を立てて、いずれは親族を日本に呼びたい。そんな彼らの心意気に胸を打たれましたね」
それでもシーズンが開幕するまでは、「この獲得がコケたらどうしよう」と不安で仕方がなかったそうだ。しかしフタを開けてみると、2人ともここまで全試合に出場。レオナルドは開幕から5試合連続ゴールを挙げて得点ランキングのトップに立った。日本をよく知るベテランのフェルナンジーニョが、心理的なサポートをしていることも大きい。去年までなら考えられない、ブラジル人トリオが躍動する鳥取。4月15日の第7節は、ホームのとりぎんバードスタジアムにY.S.C.C.横浜を迎えた。
13時3分キックオフの試合は、YS横浜がゲームの主導権を握り、鳥取は守勢に回る時間帯が続く。そして前半38分、三沢直人のゴールで先制を許すと、後半7分(三沢)と19分(大泉和也)の連続ゴールでいきなり3失点。対する鳥取も後半26分、加藤潤也の右サイドからのクロスに、レオナルドが右足ワンタッチでネットを揺らす。しかし終了間際の後半41分、左サイドを崩されて最後は吉田明生にダメ押しの4点目。首位はキープしたものの、昨シーズンの絶不調を思い出させる、何とも苦い敗戦となった(その後3連敗を喫して、第10節現在7位に後退)。
「どんよりした雰囲気」のままで終わった昨シーズン
就任2年目の森岡隆三監督。昨シーズンはハードな移動に苦しみ最下位に甘んじた 【宇都宮徹壱】
最後にバードスタジアムを訪れたのが、J2最後のシーズンとなった13年。あれから早5年となった。翌14年、鳥取は創設されたばかりのJ3リーグでの「オリジナル11(Jリーグ・アンダー22選抜を除く)」に名を連ねることとなる。おそらくクラブ関係者もサポーターも、1シーズンでのJ2復帰を期待しながらJのボトムリーグでの戦いに臨んだことだろう。しかし14年は12チーム中4位、15年は13チーム中6位、16年は16チーム中15位、そして17年は17チーム中17位、つまり最下位であった。5年ぶりに再会した鳥取の古株サポーターは、当時をこう振り返る。
「去年のチームは、何だかどんよりした雰囲気でしたね。(原因は)ほとんどの移動をバスにしたのが大きかったと思う。12時間かけて栃木まで行ったこともありましたからね。たとえばアウェーに行って、選手バスが来るのを待っているじゃないですか。選手たちはふてくされた顔で出てくるんですよ(苦笑)。試合にしても、2点リードしていても信用できない。1点でも返されたら、またどんよりしてしまう。去年はそんな感じで終わりましたね」
そんなチームを率いていたのが、昨シーズンが監督1年目の森岡隆三。現役時代は鹿島アントラーズ、清水エスパルス、そして京都サンガF.C.でプレー。元日本代表として、02年のワールドカップ日韓大会にも出場している。現役引退後は、京都のコーチとU−18監督、09年には佐川印刷京都のヘッドコーチを務めたが、トップチームの監督は今回が初めて。その1年目は屈辱的な結果に終わったものの、森岡の責任を問う声はそれほど大きくならなかった。そして迎えた2年目のシーズン、最下位からいきなり首位に立つとは、誰も想像できなかったはずだ。果たして、鳥取に何が起こったのだろうか。