ピック&ロールの名手・田中大貴 データに表れたアルバルク東京の勝利哲学

佐々木クリス

A東京の哲学を明確に示すデータ

【(C)B.LEAGUE】

 アルバルク東京はピック&ロールに始まり、ピック&ロールに終わる。現代バスケットボールで最重要プレーともいえる連係プレーで、攻撃では「アドバンテージ作り」、守備では「ズレを明け渡さないこと」を徹底した。何度も繰り返しながら遂行力を練り上げ、鋼のように堅くたたきあげた。

 A東京がピック&ロールを効果的に使っている証拠に、ピック&ロールが生み出す「ズレ」を示す指標のひとつであるキャッチ&シュートの頻度で、攻撃では最も多くノーマークを作り出し、守備では最もノーマークを与えなかった。偶然ではなし得ない、彼らの哲学を明確に示したデータだ。

 現代バスケにおいてピック&ロールとは、ボールを扱う選手と、つい立て(スクリーン)の役割をする2人だけの連係プレーではない。だからこそ言えるのだが、攻撃では局地的な数的優位が生まれるまで2度3度と繰り返し、守備ではなるべく相手を一定方向の袋小路に追いやって選択肢を奪っていく。この約15センチのエリアのせめぎ合いを繰り返す戦い方で、A東京はリーグで最もペースの遅いチームのひとつとなった。

 スティールを無謀に狙うより、粘り強い守備で相手のシュート成功率を極限まで下げる。その結果、A東京は堅守でありながら速攻が少ない。高い確率で得点が期待できる速攻が少ないにも関わらず、リーグ4位の得点効率をたたき出しているということになる。A東京は次に多い琉球ゴールデンキングスよりも10%も頻度が高い、44.1%を占めるピック&ロールからの波状攻撃でシーズンを通して大きな成功を手にしたと言っていいだろう。

富樫をしのぐピック&ロールの使い手

 この攻撃の先鋒を務めるのが、チームの顔とも言える存在の田中大貴だ。総大将でありながら切り込み隊長という重大すぎる任務をクールな顔で40分間やり通す田中は、千葉ジェッツの富樫勇樹と2人、チャンピオンシップ(CS)進出チームのうち300回以上ピック&ロールから自らのシュートに持ち込んだまれな存在だ。さらにパスまで含めると回数は富樫の561回を大きく上回り743回と最多。しかもそこからの得点効率は、良い攻撃の指標である1.00ppp(ppp=Points Per Possession)に限りなく近い0.984pppとなっており、CSでも1番の武器となることは間違いない。

 そして田中のピック&ロールを完成させる上で最高の相棒とも言える存在、アレックス・カークも忘れてはならない。相手の首がむち打ち症になるのではと思うほどの強固なスクリーンは、田中の自由を担保する数秒間を稼ぐばかりか、即座にリングへ飛び込み田中とのアリウープを完成させてしまう。取れないパスはないのではないかと思わせるほど、後方に逸れたボールをも身体を弓のように反らせてリングの上からたたき込む。600回以上攻撃回数のあった選手のうち、リーグで最も高い得点効率を残したことも納得のプレースタイルだ。

 カーク以下、それだけの攻撃回数を記録した中で得点効率がリーグでトップ5に数えられる選手たちの顔ぶれは、京都ハンナリーズのジョシュア・スミス、新潟アルビレックスBBのダバンテ・ガードナー、琉球のハッサン・マーティン、そして同率で名古屋ダイヤモンドドルフィンズのジャスティン・バーレルと川崎のニック・ファジーカスと並ぶ。しかし、このそうそうたるメンバーの中で攻撃時にターンオーバーを犯してしまう頻度はカークが最も低く、最大効果を得られる選手だ。リーグ平均を上回るロング2ポイントシュートを沈めるシュートセンスも持ち合わせ、このワンツーパンチは強烈だ。

 世界基準のビッグクラブを目指すA東京。選手を取り巻く環境や戦術は、順調に整いつつある。ホームアリーナを歓声で埋め尽くした今季、残る目標は2年連続で進出するCSにおいてファイナルまで勝ち進み、優勝トロフィーを手にすることだけだ。

※データはすべて第27節終了時点のものです。
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