17歳でイングランド2部の年間MVPに フラムで輝く「ベイルみたい」な超新星

山中忍

憧れていたベイルのように

すでにU−21代表でプレー。英国内ではW杯のメンバー入りを推す声も 【Getty Images】

 素顔のセセニョンは口数の少ない謙虚な若者。自宅では、やはりフラム所属で双子の兄弟スティーブンとコンピューターゲームをして時間を過ごす、ごく普通の17歳でもある。ところがスパイクを履いてピッチに立つと、その足で自信満々に語る特別な17歳に豹変(ひょうへん)する。15歳で1軍の練習に呼ばれるようになったセセニョンが、「失礼なことに、いきなり股抜きを仕掛けてきた。しかも2度!」と、テレビのインタビューで冗談まじりに回想していたのは、8歳年上のフレデリクスだった。

 ピッチ上では攻撃的な姿が自然体でもある。ユース時代に憧れていたというルーク・ショー(現マンチェスター・ユナイテッド)とガレス・ベイル(現レアル・マドリー)も、サウサンプトンのユースから攻撃的な左SBとして頭角を現した2名だ。両者に共通するスピードとスタミナの他、セセニョンはゴールへの嗅覚も持って生まれている。昨季の第4節カーディフ戦で、ベンチから送り出されて3分足らずで決めた1軍初ゴールからして、混戦状態のゴール前で足元に来たクロスにピタリと合わせた「点取り屋」ふうのゴールだった。

 もちろん、ボールのコントロールやシュートの正確性に見られるテクニックも申し分ない。フラムでは、くしくもセセニョン兄弟がアカデミー入りした2008年から、サウサンプトンの下部組織で評判の高かったヒュー・ジェニングスが育成部門の責任者を務めている。以前、ロンドン南西部にあるフラムの練習場で話を聞いた際、最も重視するキーワードとして「テクニック」を挙げていたジェニングスが、1軍への引き上げをヨカノビッチに薦めたユース選手こそがセセニョンなのだ。

 シュートとパスの選択をはじめとする判断の良さには、育成の成果も見て取れる。ジェニングスは、「ドリブルにしても、誰を経由して最後は誰に渡すこと、などとあらかじめ指示を与えるのではなく、ボールを持った選手自身が誰にパスをするのが効果的なのかを考えるように仕向けて、その選択についてコーチがアドバイスするようにしている」と、練習時から素早い状況判断を強いる必要性にも触れていた。

 プロ契約1年目のセセニョンにとって、現在の3トップの左サイドは適所中の適所だろう。自ら「より直接的に試合展開に影響を与えることができるから」と言って、好んでもいる。守備の負担が軽く、本能でもある攻撃では、スピーディーかつテクニカルなドリブルで相手ペナルティーエリアに切り込むことはもちろん、昨季まではトップ下を務めることもあった中盤3センターの一員トム・ケアニーや、今冬にニューカッスルからレンタル移籍で加入した新ターゲットマン、アレクサンダル・ミトロビッチと頻繁に絡んで攻めることもできる。

 将来的にも、ダイナミックなアタッカーへと変貌を遂げたベイルと同じ路線を歩むことになるのかもしれない。178センチ・71キロと小柄なセセニョンだが、今でこそ筋肉に包まれた80キロ台のベイルだって10代の頃は線が細かった。現時点では左サイドのマルチロールだが、ユース時代には前線中央が持ち場だったこともあるセセニョンが、右サイドで起用されて、カットインから得意の左足で相手ゴールを脅かすようにもなれば面白い。

成功への近道はフラムでのプレミア挑戦

かつて稲本潤一も在籍したフラムは、5季ぶりのプレミア復帰にあと一歩 【Getty Images】

 その意味でも、今後の成長と進化に欠かせない1軍ピッチでの時間を重ねることのできる、フラムでのキャリア継続が妥当と思われる。今夏にはトッテム、チェルシー、アーセナル、マンチェスター・Uといったプレミアの強豪が獲得に動くとの説もあるが、ビッグクラブ移籍に潜む落とし穴は、フラムでの前線逆サイドに目を向ければ確認できる。祖国ブラジルから17歳でチェルシーに青田買いされたFWルーカス・ピアソンは、途中出場による1試合しかプレミアのピッチを知らないまま、24歳になった今季を通算5つ目のレンタル先であるフラムで過ごしている。

 そのフラムは、2位カーディフに1ポイント差の3位で迎える5月6日の最終節に、トップ2でのプレミア自動昇格を実現する可能性を残している。3位に終わっても、6位までの4チームによるプレーオフというルートがある。当人も、「フラムの選手としてプレミアでプレーできれば、それこそ最高に光栄だ」と、個人賞を手にした一夜に語っていた。

 クラブへの愛情は、今季最後のホームゲームとなったサンダーランド戦でも確認できた。試合後のクレイブン・コテージには、試合終了の笛が鳴ると真っ先にスタンドの「12人目」に労いの拍手を送り、続く感謝の場内一周でも先頭に立つセセニョンの姿があった。フラムの主力を担う17歳には、監督の信頼とファンの共感を得ている地元クラブでのプレミア挑戦が最善のシナリオだ。ビッグクラブでのサクセスストーリーをつづり始めるのは、その次のステップでも遅くはない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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