イングランドに優秀な指揮官は生まれるか 外国人監督活躍の陰で、FAが進める改革

山中忍

プレミアでイングランド人監督は4名のみ

外国人が活躍するプレミアリーグでは、イングランド人指揮官はボーンマスのハウ(手前)ら少数派だ 【写真:ロイター/アフロ】

 世界的な人気を誇るイングランド・プレミアリーグ。今季は豪華な監督陣も魅力の1つとなっている。おなじみのアーセン・ベンゲル(アーセナル)、登場3度目のジョゼ・モウリーニョ(マンチェスター・ユナイテッド)、就任2年目のユルゲン・クロップ(リバプール)らの大物に、ジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)とアントニオ・コンテ(チェルシー)も加わっているのだ。

 ただし、イングランドのトップリーグという目でプレミアを眺めると、もろ手を挙げて喜べる状況ではない。代表復興を期するイングランドFA(協会)にとっては改善を要する状況ですらある。前述の顔ぶれは全て外国人。本稿執筆時点では、プレミア監督20名の中に母国出身は4名のみで、「母国」の解釈を英国に拡大しても7名しかいない。国産が理想的とされる代表監督候補の選択肢が狭すぎるのだ。

 昨年、図らずも2度訪れた代表の新監督指名時には、プレミア歴20年のフランス人ベンゲルが、「準国産監督」とみなせることからも、FAの第1希望とされた。「準国産」の対抗馬はエディ・ハウ。しかし、まだ30代でプレミア経験2年目のボーンマス指揮官は、自他共に「時期尚早」との最終判断でも仕方がなかった。

 外国人監督が多い理由を突き詰めて言えば、プレミアにおけるビジネス面の巨大化になるだろう。国際的な人気や収益を左右するピッチ上での成績がクラブ経営に及ぼす影響が高まり、経営陣が即座の成功を監督に求める傾向が強まった。フロントは実績や名前のある指揮官を欲しがり、下部組織からの内部昇格や駆け出しの監督を登用する心のゆとりが乏しくなっている。

 昨夏にモウリーニョ招へいに踏み切ったマンUでは、クラブ生え抜きの英雄であり、2013年に勇退した名将サー・アレックス・ファーガソンの長期的後継者となるべく、助監督として準備をしていたライアン・ギグスが、監督としてのキャリアを求めてクラブを去らざるを得なかった。

12年開設の「育成本部」に見るFAの本気

12年10月、最新鋭の施設をそろえたセント・ジョージズ・パークが開設された 【写真:代表撮影/ロイター/アフロ】

 プレミア勢が海外の大物監督を呼べる背景には、楽勝カードなどないと言われるリーグ全体の競争性もさることながら、そのための戦力充実、そして監督自身の高給をも約束するクラブの資金力がある。テレビ放映権収入が3年契約で50億ポンド(約7000億円)を超える域に達しているリーグは、海外投資家の興味を引くようになって久しい。

 今季プレミアで純粋に英国人オーナーの所有物と言えるクラブは、バーンリー、ミドルズブラ、ストーク・シティ、トッテナム、ウェストハムの5つだけだ。必ずしも外国人オーナーだから外国人監督を好むというわけではないにしても、彼らに英国人監督へのこだわりがあるわけではない。貴重なイングランド人監督の1人であるサム・アラーダイスなどは、「このままではプレミアから国産監督は消え去る」とまで言っている。

 だが、母国サッカー界を統括するFAは悲観的ではない。希望の源は、1億2000万ポンド(約168億3000万円)の予算を費やして開設したセント・ジョージ・パーク。プレミアで母国人監督が育ち難いのであれば、プレミア級の指導者を自ら輩出すれば良いという意気込みを示すとも言える、イングランドの「育成本部」だ。

 国内中部のスタッフォードシャー州にある1.3平方キロもの敷地の中に、ナショナル・フットボール・センターを内包し、客室数228のヒルトン・ホテルまで用意されているセント・ジョージズ・パークは、もちろん、1966年ワールドカップ(W杯)以来となる国際大会優勝を目指すイングランド代表の新生代を育成するために建設された。最新鋭の施設には、NASA開発の水中トレッドミル(ランニングマシン)から、ウェンブリー・スタジアムと同規模の屋内ピッチまで、ユース代表からA代表までを対象としたトレーニングに必要な設備が整っている。

 だがFAは、代表選手を育てる上で不可欠な「国産指導者を育成するための中枢」としての位置付けをより重要視している。その姿勢を反映し、12年10月の開設当時には、国内メディアで「サッカー指導者教育におけるオックスブリッジ(オックスフォード大学とケンブリッジ大学の併称)」と紹介されたものだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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