好調マンUを支えるモウリーニョの変化 15試合無敗、優勝争いに踏みとどまる

山中忍

前半戦の態度とは大違いのモウリーニョ

良いムードで新年を迎えたマンU。モウリーニョの態度も前半戦とは大違いだ 【Getty Images】

 イングランド・プレミアリーグ前半戦を終えた年末の順位は6位。首位との差は13ポイント。それでも、今季から復興の指揮を執るジョゼ・モウリーニョが「優勝争いからの早期脱落を避けて戦えている」と言っていたように、マンチェスター・ユナイテッドが4年間で3度目のトップ4漏れを予期させる重苦しい空気に包まれているわけではない。むしろ、新年を迎えたムードの良さでは、トップ2で年を越したチェルシーとリバプールにも劣らない。

 マンUは現地時間1月2日に行われた第20節のウェストハム戦(2−0)でシーズン後半を白星でスタートすると同時に、リーグ戦での連勝を6に伸ばした。その5日後、2部のレディングをホームに迎えたFAカップ3回戦でも順当勝ち(4−0)。この試合では、序盤戦からスタメン落ちばかりが騒がれてきたウェイン・ルーニーが、サー・ボビー・チャールトンのクラブ歴代最高記録と並ぶ通算249ゴール目を決めて脚光を浴びた。続く10日のリーグカップ準決勝第1戦のハル・シティ戦(2−0)は、国内外の全試合で9連勝となる勝利。優勝争いが当たり前だった8年前、つまりサー・アレックス・ファーガソン時代に11連勝を記録して以来となる9連勝だ。公式戦では15試合無敗を継続している。

 時を同じくして、マンU新監督は「クラブにほれた」とも発言している。理由は、一朝一夕には復興が難しい現実を「理解して見守るファンの存在」。クラブ所有チャンネルでのメッセージではあるが、モウリーニョの言動には、試合前後の会見でもトゲがなくなってきた。数字や理論を振りかざして「クラブ史上最悪の序盤戦」などと自身をたたくメディアを「アインシュタイン」と呼んだり、ポイントを落とした後で「意気込み」を疑問視するチーム批判を口にしたり、あるいは判定への不服をあらわにして2度のベンチ退場を命じられたり。そんな前半戦の態度とは大違いだ。

キャリック、エレーラ、ポグバによる中盤が機能

 指揮官の変化は、チームが攻守両面で本格的に機能し始めた手応えによるものだろう。だがその背景には、モウリーニョ自身の決断による変化がある。それは、マイケル・キャリック、アンデル・エレーラ、ポール・ポグバからなる中盤の構成だ。トリオの初先発は昨年10月26日にマンチェスター・シティを下したリーグカップ4回戦(1−0)。プレミアでは11月6日の第11節スウォンジー戦(3−1)が最初だ。3名の中で最も深い位置をとるキャリックは、同節が今季初のリーグ戦先発でもあった。

 それまでヨーロッパリーグとリーグカップに限られていたキャリックの先発は、新監督が最強布陣を見いだせずにいる証拠と見られていた。それまでキャリックの起用を控えていた理由について、モウリーニョが挙げていたのは35歳という年齢。しかし昨季終了時点では移籍もうわさされたベテランMFを引き止めたのは、ほかならぬモウリーニョだったのだ。

 経験を積んで磨かれた、キャリックの洞察力とポジショニングの良さは、今季の開幕前に新たに1年契約を結んだ理由でもあったはず。マルアン・フェライニのような圧倒的なフィジカルはないが、危機を未然に防ぐ能力は身長194センチの29歳をしのぐ。そして、奪い取ったボールをさばくパス能力とレンジの広さも、キャリックがはるかに上だ。脚力に衰えがないとは言い難いが、その点は機動力も持久力も十分な27歳のエレーラが守備面で理想的な相棒となる。

ポグバの能力が引き出され、イブラヒモビッチも復活

中盤のトリオ定着を機に存在感を増したポグバ(左)。イブラヒモビッチ(右)との連係も機能し始めた 【写真:ロイター/アフロ】

 そして、いよいよポグバの能力が引き出されることになった。チームとしての陣形は4−2−3−1とも4−3−3とも映るが、キャリックとエレーラの手前には、ダイナミックに攻め上がり、テクニカルにチャンスメークやシュートを狙う新MFの姿がある。ユベントス時代のような本領発揮とまではいかないが、新たな中核となるべき23歳は、中盤のトリオ定着を機に確実に存在感を増している。

 9月の移籍後初ゴールから1カ月以上のブランクを経て、プレミアでの2得点目が生まれたのは、トリオでのリーグ戦初先発となったスウォンジー戦。翌々節のウェストハム戦(1−1)では、ポグバは初アシストも記録した。同じタイミングで、ズラタン・イブラヒモビッチが2カ月近いプレミアでのゴール枯渇期を脱したのも偶然ではないと思われる。

 スウォンジー戦で2ゴールを決めたイブラヒモビッチは、リーグ戦でネットを揺らせずにいた間も「自分のサッカーをしていればゴールはおのずとついてくる」と語っていた。だが、独力で突破口を切り開くタイプではない新センターFWには、チャンスを供給する必要がある。その供給源として、大物で自信家、加えて代理人が同じという共通項のあるポグバは、移籍当初から馬が合う格好の存在だ。第16節のクリスタルパレス戦(2−1)は、まさに両者の共演。マンUがイブラヒモビッチの落としにポグバが走り込んで先制し、さらにポグバの折り返しをイブラヒモビッチが決めて勝ち越している。ポグバは計4アシストで前半戦を終えたが、いずれも得点者はイブラヒモビッチだった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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