奈良くるみの“諦めないテニス”で団結 フェド杯で日本がこじ開けた世界への扉
ワールドグループ2部昇格を懸けた厳しい戦い
全員勝利で手にしたワールドグループ 2部復帰。日の丸を手にする(左から)土橋登志久監督、奈良くるみ、大坂なおみ、二宮真琴、加藤未唯 【写真は共同】
明瞭な口調で言い切る奈良くるみ(安藤証券)は、「そんなこと言うと、今から緊張しちゃいますが」と表情を崩し、いつもの明るい笑顔で照れたように付け加えた。
4月上旬の大阪市――。この5年間、日本女子テニスのエースの看板を背負ってきた奈良は、来たるフェドカップ・ワールドグループ2部入れ替え戦に向け、調整も兼ねて日本国内のツアー下部大会に出場していた。
「(ワールドグループの下部戦である)アジア・オセアニアゾーンには、もう絶対に戻りたくないので」
世代交代が進み23歳以下の選手が中心となった今の日本代表で、地域予選にとどまる苦しさや、入れ替え戦に敗れる悔しさを知る者は、もはや彼女しかいなかった。
女子テニスのフェドカップは、シングルス4試合、ダブルス1試合から成る団体戦で最強国を決める、言わばテニスのワールドカップだ。毎年開催されるが、世界1位への挑戦権を持つのはワールドグループ1部に名を連ねる8カ国のみ。それ以外の国は複数に階層付けられている地域予選と入れ替え戦を勝ち抜き、上位グループへの階段を上がっていくしかない。日本が今回挑んだのは、8カ国で形成されるワールドグループ2部への昇格戦。その前に立ちはだかったのは、最高ランキング4位のジョアンナ・コンタと、単複7のツアータイトルを誇るヘザー・ワトソン擁するイギリスである。
英国のエースが4月21、22日に兵庫県三木市で開催される入れ替え戦に出ることは、3月の時点で確実視されていた。ヨーロッパの選手にとって、欧州のクレー(土)コートが主戦場のこの時期に、日本開催のハードコートに出る決断を下すのは容易ではない。だがコンタは、入れ替え戦の相手及び開催地を知ると同時に、日本チームや会場に関する情報収集を行っていた。フェドカップ創設以来毎年出場を続けているイギリスだが、この25年間、ワールドグループから遠ざかっている。「確かにタフなスケジュールだが、国を代表し戦う栄誉には代えがたい」との想いを胸に来日した最強選手団が、“テニスの聖地”を自負する古豪国の、並々ならぬ決意を物語っていた。
大坂「みんなで3つの勝利を手にすればいい」
「みんなで3つの勝利を手にすればいい」。大坂は強い気持ちで初戦を戦い抜いた 【写真は共同】
それから、1年――。ツアー優勝など多くの経験を重ねた20歳は、「今回は大丈夫」とはにかんだ笑みを浮かべた。
「今回は日本開催でみんな応援してくれるし、それにこれはチーム戦。たとえ私が負けたとしても、みんなで3つの勝利を手にすればいいんだもの」
その彼女に課された最大の役割は、開幕初戦となった対ワトソン戦での白星。そして大坂は、満員の観客から向けられる期待と好奇の視線と声援を悠然と受け入れながら、1時間17分のスピード勝利を手にした。その一戦を見た奈良は、「なおみちゃんに安定のテニスをされたワトソンは、自分のプレーに手応えを得られなかったはず」と感じることができたという。
同日のコンタ戦には敗れるも自分のテニスを貫いた奈良は、「いずれにしても、明日は自分に勝敗の掛かった試合がまわってくる」との覚悟を胸に、最終日へと向かっていった。