奈良くるみの“諦めないテニス”で団結 フェド杯で日本がこじ開けた世界への扉
チームをひとつにする奈良の存在
奈良くるみの戦う姿は、チームメートたちの心を常に刺激する 【写真は共同】
予想通りにもつれた一戦は第1セットのタイブレークへと流れ込み、奈良は3本の相手のセットポイントの危機に面する。だが奈良は「このセットを落としても、第2セットがある」と焦ることはない。諦める気配すら見せずボールを追う奈良の姿に、重圧を感じたのはワトソンの方だったろう。ジリジリと追い上げた奈良が、最後はバックハンドのウイナーをたたき込み逆転で第1セットをもぎ取った。
「くるみちゃんは、フェドカップに欠かせない選手だと思いました」と言ったのは、2カ月前のアジア・オセアニアゾーン予選を奈良とともに戦った日比野菜緒(ルルルン)だった。「一球すら無駄にせずに戦う姿」が見る者を引き込み、チームメートの士気を高めてくれるのだという。
確かにこの日、ワトソンと戦う奈良の姿にも、観客が、そしてチームメートがのめり込んだ。奈良が1ポイントを奪うたびに会場のブルボンビーンズドームが歓声で震え、ベンチで応援する選手たちは立ち上がり手をたたく。なかでもダブルス要員の加藤未唯(ザイマックス)は、誰より明るい声援と笑顔を、ベンチからコートへと送り続けた。「応援が好き」で「常に盛り上げたいと思っていた」彼女は、緊張とは無縁で、自身もチームの一体感を楽しんでいた。
その加藤とペアを組む二宮真琴(橋本総業)は、奈良のひたむきな姿に胸を打たれていたという。特にタイブレークでの猛追を見た時には、思わず目が「ウルっとした」。奈良が第1セットを奪った時、「これは絶対に、私たちに試合がまわってくる」と確信した二宮は、来たる決戦に備え、ベンチを離れ加藤と共に練習コートへと向かう。
それから約45分後……奈良は彼女らしいテニスで快勝を手にし、ここまでの対戦成績は2勝2敗。両国の命運はダブルスに委ねられることが確定した。
その決戦が始まる10分前、イギリスは当初の登録メンバーから変更し、コンタとワトソンのダブルス投入を発表した。
機動力と戦略がかみ合い勝利 加藤&二宮ペア
チームの勝利をかけた最終戦に勝利した加藤(右)、二宮組 【写真は共同】
一方で硬さが隠せぬ二宮は、パートナーを見ながら「なんでこの人は、こんなに笑っているんだろう?」と不思議に思っていたという。同時にその穏やかな疑問は、確実に二宮の緊張をほぐしていく。第1セットは失うも、第2セット以降は二人の機動力と戦略がかみ合い、パワーに勝る英国ペアを翻弄(ほんろう)した。
そうして迎えた、マッチポイント。リターンサイドに立つ二宮は、「セカンドサーブになったら、フォアに回り込み、二人の真ん中か前衛にぶつけてやろう」と心に決めていた。フォアのリターンは、小柄な二宮が世界で戦うために磨き上げた武器であり、監督が彼女を代表に起用した理由でもある。その迷いなき一撃は、イギリスコートの中央に刺さり、コンタとワトソンの両者は一歩も動くことができなかった。
次の瞬間、客席から大歓声が上り立ち、ベンチでは紅白のジャージが一斉に爆(は)ぜるように飛び上がる。実は2カ月前のアジア・オセアニアゾーンの決勝戦でも、勝利を決めたのは二宮のフォアだった。だがその時はウイニングショットが相手に当たったため、喜びの表出も中途半端なまま終幕していた。
その不完全燃焼分をも補わんばかりにコート上で抱き合う二人へと、奈良が両手を広げて飛び込む。やがてスタッフ全員へと広がった歓喜の輪の中には、今回は代表から外れた日比野の姿もあった。
日本が今回の対イギリス戦で手にした3勝は、シングルスでの大坂と奈良、そしてダブルスがそれぞれもぎ取ったものである。代表に選出された4人全員が勝利を挙げ、正にチーム全員でこじ開けた世界への扉だった。