ボールデッドだ! ダイアナだけ許す 「競馬巴投げ!第165回」1万円馬券勝負
おい、オッサン教師、お前、文句だけ言いやがって
[写真3]ダンスディレクター 【写真:乗峯栄一】
定時制高校野球というのは大阪府全体でも関係者も予算も不足していて、教員が他校どうしの試合の審判もする。一応公式試合の審判で、これは大変だった。
定時制高校野球部というのは、どういう訳か部員も監督も、とにかくよく審判に文句を言いに来る。「みんな仕事を持ち、夜、けなげに練習しているんだから互いに励まし合って」とか、そういう互助精神のカケラもない。
「今のがストライクかよお!」と大声でブー垂れてベンチに下がるバッターがいて、監督が「審判してくださる先生に何て失礼なことを」とその選手を叱責するかと思いきや、替わりに監督がダダダと走ってきて「いまのがストライクはおかしいやろ!」と怒ってくる。おい、オッサン教師、お前、野球部関係者会合にも出て来ないで、文句だけ言いやがってと、心底腹が立った。
それで甲子園審判で鳴らした西大立目永(にしおおだちめ・ひさし)の「野球の審判法」なる本を買って勉強した。「自信がないときは、その分だけ大声出して判定し、部員や監督を威圧しろ」と西大立目さんは書いていて(いや、書いてなかったかもしれないが、少なくともぼくはそう理解した)そこだけは役立ったが、「よく努力した」と誉めてくれる人もいないし、名審判として教員給料が上がることもなかった。
知識とは何だ
[写真4]ファインニードル 【写真:乗峯栄一】
「何がそんなにうまいんや」と(もちろん馬券外しているからだが)憤然と言うと、その感動男と某友人が言う。
「一周目からインぴったりに走らせて、最後は馬場のいい所を選んで3頭分ほど外に出して一分のスキもなかったじゃないですか」
「あれ? 乗峯さん、見てなかったんですか? どこ見てたんですか? 帰ってリプレイ見たらよく分かりますよ」ともう一人も言う。
頭にきた。オレが何年競馬見てると思ってるんだ。テンポイント以来40年だぞ。予想書き始めてからだってもう25年だ。武豊のうまさなんか、先刻承知の遠山金さんだ。ちゃんと見知ってるわ(と言いつつ、実は我が本命馬ミッキーロケットしか見ていなかった)。
「ようし、そこまで言うんなら、聞いてやる。ノーアウト走者1・2塁でキャッチャーがボール交換を要求してきた。さあ、どうする?」
「何ですか? それ」
「何ですか? じゃない。日本人の常識だ」
「野球ですよね?」
「ああ、野球だ。野球で悪いか。オレぐらいになると、競馬予想するときはまず野球から入る。野球見ると、すりガラスを見るように競馬結果が透けて見えてくる」
「何か訳が分からないけど、キャッチャーが交換を要求してきたらボール換えるんじゃないですか」
「ヌーハッハッハ、ヌーハッハッハ、じゃ、その間に走者が走ったらどうする? 古いボールで3塁に投げてアウト、新しいボールで2塁に投げてアウト、グラウンド上にボールが何球も行き交うのか? え? ヌーハッハッハ。審判はまずタイムをかけて“ボール・デッド”にするんや。うー、苦しい、ボールが死ぬぅ。ボール・デッドかあ。そう言えば、うちの近所に桃山台という駅がある。地下鉄ではこれを英訳するとき、モモヤマ・ダーイと発音する。モモヤマ、お前は既に死んでいる、うー、苦しい、テメエはケンシロウだったか!」などと訳の分からないことを言って、のたうち回っている間に二人は勘定済ませて帰ってしまった。
知識とは何だ。あの、大昔の4年間の野球勉強は、一銭にもならないどころか、友人たちに嫌われるための勉強だったのか。
GIレースの直線、一度でいいから、突然中に入っていって、「ボール・デッドだ。止まれえ!」と声を掛けたい。「ボール・デッドだ! 既にボールは死んでいる。お前ら、ボール・デッドも知らんのか!」と両手を高々と掲げてみたい。
「あ、西大立目審判の再来だ」とごく一部で誉めてくれないだろうか。