地域活性化のために「スポーツ」は必要か 事例から考えるエリア価値の高め方

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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

第78回みなとフォーラムの講師は、スポーツマネジメント事業を手掛ける松田氏が務める 【スポーツナビ】

 公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第78回が12月13日、東京都港区のみなとパーク芝浦・男女平等参画センターリーブラホールで開催された。

 今回は「ラグビーワールドカップで港区の価値を高める!」というテーマで、株式会社Waisportsジャパン代表取締役の松田裕雄氏を招き講演が行われた。松田氏は筑波大学体育系講師を経て、筑波大学発ベンチャー、株式会社Waisportsジャパンを創業。スポーツを通じたマネジメント事業を手掛けている。

 講演は松田氏による「エリア(地域)の価値を高めるとはどういうことか? そのために、『スポーツ』は本当に必要なのか?」という問いかけから始まった。

「スポーツによる地域活性化」というが……

「スポーツによる地域活性化」という言葉がよく聞かれる現在、松田氏はまず地域活性化におけるスポーツの必要性について再考すべきだと話す。

「スポーツ以外にもとても大切な良い資源が足元にあるにもかかわらず、それを見落としてしまっている場合も多い。スポーツは基本的に国外からの“輸入品”であり、国産品ではない。それをどこまで使いこなせるかという話になってきます」

 実際に地域活性化のためにスポーツを活用した例は国内外で複数挙げられるが、そもそも成功したかどうかの基準自体が日本では曖昧(あいまい)になっている。スポーツビジネスという観点から言えば、その基準となり得るもののひとつが「不動産価値」だという。不動産価値向上の背景には、人口増加や税収増加などの活性化といった、具体的に地域が潤う様子がイメージできる数字が必ずある。これらがあってはじめて「地域活性化」に寄与したといえるのではないかと松田氏は指摘する。

「不動産価値向上」の要因として挙げられるのは主に3つ。インバウンド(訪日外国人旅行)や企業の誘致などの一般的要因、地理的環境や基本的な福祉環境などの地域要因、そして自然災害の危険性や地質など、その土地そのものに関する個別的要因だ。こういった3つの要因に対して、スポーツがどれだけ効果的なのか。松田氏は「地域活性化」における国内外の成功事例について、例を挙げながら説明した。

「スキー産業」が落とした大きな影

新潟県湯沢町のリゾートマンションの広告。買い手が付かず、格安価格で競売にかけられる場合も 【写真は共同】

 米国アリゾナ州都フェニックス市郊外に位置するグッドイヤー市やスコッツデール市は、メジャーリーグのスプリングキャンプを誘致したことで、15万人以上もの人が生活する都市となった。キャンプのために作った簡易スタジアムは赤字経営で、その稼働率は低いものの、街全体の収益は黒字を維持している。松田氏は、ここに1つのヒントがあるという。

 キャンプ期間中はメジャーリーグの各球団が長ければ1カ月ほどフェニックスに滞在することになるが、毎年そのトレーニングの様子を一目見ようと全米からファンがやって来る。その際、ショッピングやドライブを楽しむ彼らに対して、各市はレンタカー税や宿泊税を徴収。その資金をスタジアムの維持費や人件費に回すことで、街全体の黒字経営を維持しているのだという。また、このあたり一帯は一定した温暖な気候のもと過ごしやすいことと、かつてのメッカ・フロリダ州のキャンプ地より全米からアクセスがよいことで知られており、そうした地理的な自然の資本を有効活用している事例でもあるとしている。

 もちろん、こういった地域活性化のための事業はすべて成功しているわけではない。国内での失敗例として、松田氏が挙げたのは「スキー産業」だ。

 1987年6月、「総合保養地域整備法(通称リゾート法)」の施行により、助成金制度や税制上の優遇措置を基盤とした“箱物”開発が各地で進むことになった。「日本人も欧米人並みに余暇を楽しむ時代」とばかりに一大ブームを巻き起こしたスノースポーツは、その競技人口が爆発的に増加。スキー産業は飛躍的に発展していった。

 しかし、バブルの崩壊によりブームは終焉(えん)を迎える。その後は周知のとおり、競技人口は減少の一途をたどり、2000年代には使わない箱物だけが残された。さらに10年代には、少子高齢化の影響などにより、衰退の流れは止まらなくなっている。

「不動産価値」という側面から見ても、スキー産業の衰退は大きな影を落とした。現在、日本に8万戸ほどあると言われているリゾートマンションのうち、約15パーセントを有するのが新潟県湯沢町だ。川端康成の小説「雪国」の舞台となったこの街は、スキー産業でにぎわいを見せたものの、現在はその勢いも沈静化。マンションだけが残ることになったが、入居者は増えず1部屋1万円と格安で競売にかけられた部屋もある。さらに、このマンションに移り住む地元の高齢者も増え、用途が当初とは大きくかけ離れてしまっている。

求められる「計画的一体型」という考え方

スポーツはあくまで街づくりの「手段」のひとつに過ぎない 【写真:ロイター/アフロ】

 こうした失敗はなぜ起きてしまうのか。松田氏はその原因について、スポーツを「目的」として捉えてしまう傾向があるのではないかと分析している。

「スポーツビジネスとよく言いますが、実はスポーツ自体がお金を作り出すことは難しいんです。スポーツには、もともと宗教、言語、人種の違いや貧富の差を超えた交流や相互理解を促すことを目的に発展してきた経緯があります。前提条件がない「誰もが参加できる」ことを背景に生み出された場への参画の前提に、過剰な商取引が入ってくる時点で、すでにスポーツの生成過程と逆行してしまっています」

 街というのはさまざまなものの集合体であり、スポーツはあくまで街づくりの「手段」のひとつに過ぎない。そう捉えると、街を活性化するためにはスポーツ単体で何かを計画するのではなく、街と一体になって計画的に物事を進める必要がある。スポーツを「手段」として街づくりや地域の活性化を図るうえで求められるのは、「計画的一体型」という考え方だ。

 スポーツを使ってどういった街づくりがしたいのかという根本が曖昧な状態では、もちろんいい結果は得られない。大切なのは「施設単体の利用料をどうもうけるか」ということよりも、「施設のあるエリアにどう人を呼び込むか」ということ。それに伴って県の法制度や条例の整備が必要であれば、県や市が協力して事業を進めていく。スポーツによる地域活性化を考えるうえで、「計画的一体型」は無視できないテーマとなるはずだ。

 最後に冒頭で会場に語りかけた「エリアの価値を高めるとはどういうことか」という問いかけに対して、松田氏はこう語り講演を締めくくった。

「地域活性化のためにチームを作りたいという相談を県の担当者から受けた場合は、原点に立ち戻ったほうがいいという話をします。自分たちの街にも、、素晴らしい資源がたくさんあるのではないかということについて考えてほしい。そのためにスポーツが有効に機能するのであれば手段として使えばいい。スポーツを目的としてとらえずに、手段としてとらえてほしいと思います」

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