ラグビーブームの今こそ進めたい価値向上 TLサントリーのプロモーション戦略
サントリーサンゴリアスの元選手で、引退した現在は同チームで広報兼普及担当を務める田原耕太郎氏 【スポーツナビ】
内部の人的資源を活用した普及活動
なかでも特に普及活動が重要だと語る田原氏から、会場に「昨年のプロ野球、Jリーグの優勝チームを答えられる人はいますか?」との質問。しかし手はまばらにしか上がらない。「選手がすごい大変なトレーニングをしてやっとつかんだタイトルも、時間が過ぎたら(世間は)覚えていないんです」。
加えてトップリーグを取り巻く環境について、田原氏が脅威だと語ったのがスーパーラグビーの存在だ。世界的スター選手のプレーを目の当たりにすれば、トップリーグの質に物足りなさを覚えるファンも現れるだろう。「勝つことを追求しつつ、違う軸で新しい価値を作っていかないといけない。サンゴリアスの人材を活用して、これをやっていく必要があると思います」。
そこでサンゴリアスは、管理栄養士やカメラマンといったチーム内のノウハウを活用し、ラグビーを身近に感じてもらうイベントを実施している。特徴的なのは社内外の他コミュニティと連携した企画が多い点だ。食育セミナーは、ラグビースクールの最中に手持ち無沙汰な保護者を対象に行われているし、撮影会は女性向け媒体「DRESS」とのコラボで実現した。他にもサントリー社の商材として「タグラグビーによる社員研修」が導入されたり、チームの女性ファン、通称「ゴリ女」向けにハーブのワークショップを開催したりと方向性はさまざま。田原氏は「サンゴリアスを好きになってもらうため、とにかくチームの門戸を開かないといけない」と力を込めた。
選手に対するキャリア支援
「ラグビーを通じて得られる多様性、責任感、役割、チームワーク、規律、応用力などの能力は、ビジネスで通用しないわけがありません。これをキャリア形成に明るい会社の人事部担当者から伝えてもらうと、選手たちは自信を持ち、仕事とラグビーの両立がすごくうまくいくんです」
エディー氏が考案したサンゴリアスのチームスピリッツ「PRIDE」「RESPECT」「NEVER GIVE UP」をまっとうすればもう立派な社会人だと、田原氏は選手にいつも説明しているそう。「現役選手がラグビー養ったノウハウを職場でも活用して、会社の即戦力になる。こうなればチームの勝ち負け以外にも会社がラグビー部を持つ価値が生まれます」。このようなアプローチができるのも、企業スポーツの強みと言えるだろう。
トップリーグならではの強みとは
ヘスケスの逆転トライで劇的勝利をあげた15年W杯南アフリカ戦。日本は空前のラグビーブームに包まれたが、田原氏は違う角度からの人気向上も図るべきだと指摘する 【写真:アフロ】
「もうすぐ日本大会まで3年を切ります。南アフリカは強いです。次いつ勝てるんですかと。これだけを求めるのは、僕はすごく危険だと思うんですよ。もちろん勝つことは素晴らしいし、勝たないといけない。でもそれは本当に大変なことです。またエディーさんみたいな優秀な監督はそうそういないです。じゃあ、何をしないといけないのか」
チーム母体であるサントリーの主力商品、プレミアムモルツを例に考えてみる。
「工場で研究者の人たちが一生懸命頑張って素晴らしい商品を生み出します。そして矢沢永吉さんを立てて、プレミアムモルツとしてしっかり売り出すわけです。(ラグビーも)全く一緒なんですよ。
世界最高のビールを作るっていうのは、さっき言った強化グループの役割で監督やキャプテンを中心にチームがやること。その商品をどうやって売るか、これは僕ら運営グループの仕事です。そして共通の問題を持つ協会と一緒にやっていかないといけない。どれだけ良いラグビーをしたって、誰も知らなかったら意味無いです。またどんなに良いものでも必ず飽きられます。常に改善していかないといけない」
では、そのマーケティング知識はどこにあるのか。トップリーグに参加する企業を見ると、サントリー以外にもライバルのパナソニックを始めトヨタ、キヤノン、リコー、東芝といったそうそうたる大企業が並んでいることが分かる。
「ここにそのノウハウは絶対あるんですよ。にも関わらず連動していないというのが、今トップリーグが持つ可能性であり、問題じゃないかなと思います」
経済の先行きが不透明な現代、企業スポーツの5年後は見えづらい。まだ体力のある今こそ仕組みづくりを進めるべきだと訴えた田原氏。ファンには好きなスポーツへ投資する感覚を求めた上で、期待に応えられるよう「強化グループは『勝ち』を、僕ら運営グループは『価値』を追求していく」として、第一部を締めくくった。